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明け方のラブホテルにて
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堀口は淡々と進められる議論に置いていかれぬよう、資料に目を走らせる。これまでとは異なる点が見られる事件。いわばターニングポイントとなる事件の概要を桂がざっと説明した。変に既視感があるのは、先走って資料に目を通してしまったからだろう。
「……というわけで、今回の事件に限っては男性のほうが殺害されずに難を逃れているんだよねぇ。これをどう考えるべきか」
面倒臭そうに資料を眺めつつ、しかもソファーの上で横になっているが、それでも辛うじて議論に参加している田之上が、桂の言葉に口を開く。
「一応、その生き残った男にも聴取はしているんだろ? 被害者と一緒にいたってことは犯人を目撃しているだろうし、もうそれで事件解決。俺達の出る幕もないんじゃねぇか?」
峠の中腹にあるラブホテルの外で起きた新たなる事件。被害者は稲垣美里という女子大生だけで、今回に限っては連れである中畑雄志が難を逃れている。これまでと同様にプレートが残されており、しかも被害者に対する犯行の手口からも、間違いなく例の連続猟奇殺人であると断言できる。
「そういうわけにはいかないんだよねぇ。中畑の証言も資料に記載されているけど、犯人からの襲撃を受けたのは、清算を終えて部屋を出た時のことらしい。現場となったラブホテルは、個室全てが独立した形……ようは海外のモーテルのような造りになっている。当然、フロントを通すこともなく、清算は個室内で行える。で、精算をして先に被害者のほうが部屋を出た。中畑もそれに続いて退室した際に、犯人からの襲撃を受けてしまったらしい。中畑はそのまま被害者の女性を残して部屋の中へと戻り、鍵をかけてしまったそうなんだよねぇ」
雅が小さく溜め息を漏らし、そして手をビシッと挙げた。
「はーい! 女子を残して自分だけ閉じこもったとか、最低だと思いまーす!」
その言葉に桂は苦笑い。田之上は「ビッチが言っても説得力ねぇなぁ」と余計な喧嘩を売り、その喧嘩を雅が買う前に「まぁまぁ――」と、桂が制止する。この三人は、なんだかんだでうまい具合にバランスがとれている。
「そうかもしれないねぇ。でも、その判断が彼の命運を分けたのも事実なんだよねぇ。被害者を見捨てて部屋に戻ったおかげで命拾いした。ただ、襲撃された時は混乱していたそうだし、すぐに部屋へと戻ってしまったせいで、犯人の顔は見ていないそうだよ。本当にもったいないよねぇ――連続殺人鬼のご尊顔を拝見できたかもしれないのにぃ」
「……というわけで、今回の事件に限っては男性のほうが殺害されずに難を逃れているんだよねぇ。これをどう考えるべきか」
面倒臭そうに資料を眺めつつ、しかもソファーの上で横になっているが、それでも辛うじて議論に参加している田之上が、桂の言葉に口を開く。
「一応、その生き残った男にも聴取はしているんだろ? 被害者と一緒にいたってことは犯人を目撃しているだろうし、もうそれで事件解決。俺達の出る幕もないんじゃねぇか?」
峠の中腹にあるラブホテルの外で起きた新たなる事件。被害者は稲垣美里という女子大生だけで、今回に限っては連れである中畑雄志が難を逃れている。これまでと同様にプレートが残されており、しかも被害者に対する犯行の手口からも、間違いなく例の連続猟奇殺人であると断言できる。
「そういうわけにはいかないんだよねぇ。中畑の証言も資料に記載されているけど、犯人からの襲撃を受けたのは、清算を終えて部屋を出た時のことらしい。現場となったラブホテルは、個室全てが独立した形……ようは海外のモーテルのような造りになっている。当然、フロントを通すこともなく、清算は個室内で行える。で、精算をして先に被害者のほうが部屋を出た。中畑もそれに続いて退室した際に、犯人からの襲撃を受けてしまったらしい。中畑はそのまま被害者の女性を残して部屋の中へと戻り、鍵をかけてしまったそうなんだよねぇ」
雅が小さく溜め息を漏らし、そして手をビシッと挙げた。
「はーい! 女子を残して自分だけ閉じこもったとか、最低だと思いまーす!」
その言葉に桂は苦笑い。田之上は「ビッチが言っても説得力ねぇなぁ」と余計な喧嘩を売り、その喧嘩を雅が買う前に「まぁまぁ――」と、桂が制止する。この三人は、なんだかんだでうまい具合にバランスがとれている。
「そうかもしれないねぇ。でも、その判断が彼の命運を分けたのも事実なんだよねぇ。被害者を見捨てて部屋に戻ったおかげで命拾いした。ただ、襲撃された時は混乱していたそうだし、すぐに部屋へと戻ってしまったせいで、犯人の顔は見ていないそうだよ。本当にもったいないよねぇ――連続殺人鬼のご尊顔を拝見できたかもしれないのにぃ」
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