巣喰RAP【スクラップ】 ―日々の坂署捜査第六課―

鬼霧宗作

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明け方のラブホテルにて

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 当初はすぐに解決する事件だと思われた。しかし、犯行時刻が深夜から早朝の間であったせいで目撃証言は得られず、また被害者の交友関係を洗っても収穫はなし。奇妙なプレートまで残されていたものの、現場から犯人像は浮かんでこなかった。

 第一の事件で警察が足踏みしている間に、第二の事件が発生してしまった。今度は平日の真っ昼間。比較的、人の出入りの激しい公園の、その中ではわりかしひっそりとした位置にある公衆トイレが現場となった。発生時期は、第一の事件からちょうど一ヶ月が経過しようとしていた頃だった。

 被害者は植木忠うえきただし17歳と、松本亜里沙まつもとありさ17歳の高校生カップル。女性用の個室に男性の遺体が、その個室から少し離れた洗面台の近くに女性の遺体が横たわっており、使用頻度が高い公園中心部にある公衆トイレに空きがなかったため、仕方なく公園の外れにある公衆トイレまでやって来た子連れの主婦が発見して通報した。

 現場はそうそうたるもので、男性の遺体は個室の便座へともたれ込む形で、また女性のほうは洗面台の近くに仰向けになった状態で、やはり焼死体となって発見された。トイレの入り口には、なぜか二人の制服が綺麗に畳まれて置いてあり、その衣類の上に、最初の事件と全く同じ文言の入ったプレートが残されていた。

 女性の子宮は、それが連続殺人であると誇示するかのように切り取られており、また現場に第三者の精液が残されていたのも、この第二の事件が初めてである。この精液が誰のものなのかは、言うまでもなくいまだに判明していない。もちろん、鑑識課は証拠として精液を採取し、科捜研のほうへと回しているが、DNA鑑定をしたからといって犯人が絞り込めるほど、現実は簡単ではない。

 DNA鑑定とは特定の被疑者を犯人ではないと決定付けるために行われることが多く、DNAの型が一致したからといって、それで犯人と決めつけるほど警察も短絡的ではないのである。どちらかと言えば、DNAの型が一致しないからこそ、捜査線上に浮かび上がった被疑者が事件とは無関係であると証明するファクターが強い。DNA鑑定によって犯人の可能性が強い人物を絞り込むことができれば良いが、警察が国民全てのDNA情報を保持しているわけではないし、前科者のDNAを採取するにも日本では様々な規制がある。日本ではDNAすらも個人情報なのだ。

 ――例に漏れず現場に残された精液を鑑定したところで犯人像が浮かび上がるわけもなく、後の捜査で判明したことといえば、高校生カップルの素行が非常に悪く、何度か警察の世話になっていたことくらいだった。
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