32 / 95
明け方のラブホテルにて
13
しおりを挟む
当初はすぐに解決する事件だと思われた。しかし、犯行時刻が深夜から早朝の間であったせいで目撃証言は得られず、また被害者の交友関係を洗っても収穫はなし。奇妙なプレートまで残されていたものの、現場から犯人像は浮かんでこなかった。
第一の事件で警察が足踏みしている間に、第二の事件が発生してしまった。今度は平日の真っ昼間。比較的、人の出入りの激しい公園の、その中ではわりかしひっそりとした位置にある公衆トイレが現場となった。発生時期は、第一の事件からちょうど一ヶ月が経過しようとしていた頃だった。
被害者は植木忠17歳と、松本亜里沙17歳の高校生カップル。女性用の個室に男性の遺体が、その個室から少し離れた洗面台の近くに女性の遺体が横たわっており、使用頻度が高い公園中心部にある公衆トイレに空きがなかったため、仕方なく公園の外れにある公衆トイレまでやって来た子連れの主婦が発見して通報した。
現場はそうそうたるもので、男性の遺体は個室の便座へともたれ込む形で、また女性のほうは洗面台の近くに仰向けになった状態で、やはり焼死体となって発見された。トイレの入り口には、なぜか二人の制服が綺麗に畳まれて置いてあり、その衣類の上に、最初の事件と全く同じ文言の入ったプレートが残されていた。
女性の子宮は、それが連続殺人であると誇示するかのように切り取られており、また現場に第三者の精液が残されていたのも、この第二の事件が初めてである。この精液が誰のものなのかは、言うまでもなくいまだに判明していない。もちろん、鑑識課は証拠として精液を採取し、科捜研のほうへと回しているが、DNA鑑定をしたからといって犯人が絞り込めるほど、現実は簡単ではない。
DNA鑑定とは特定の被疑者を犯人ではないと決定付けるために行われることが多く、DNAの型が一致したからといって、それで犯人と決めつけるほど警察も短絡的ではないのである。どちらかと言えば、DNAの型が一致しないからこそ、捜査線上に浮かび上がった被疑者が事件とは無関係であると証明するファクターが強い。DNA鑑定によって犯人の可能性が強い人物を絞り込むことができれば良いが、警察が国民全てのDNA情報を保持しているわけではないし、前科者のDNAを採取するにも日本では様々な規制がある。日本ではDNAすらも個人情報なのだ。
――例に漏れず現場に残された精液を鑑定したところで犯人像が浮かび上がるわけもなく、後の捜査で判明したことといえば、高校生カップルの素行が非常に悪く、何度か警察の世話になっていたことくらいだった。
第一の事件で警察が足踏みしている間に、第二の事件が発生してしまった。今度は平日の真っ昼間。比較的、人の出入りの激しい公園の、その中ではわりかしひっそりとした位置にある公衆トイレが現場となった。発生時期は、第一の事件からちょうど一ヶ月が経過しようとしていた頃だった。
被害者は植木忠17歳と、松本亜里沙17歳の高校生カップル。女性用の個室に男性の遺体が、その個室から少し離れた洗面台の近くに女性の遺体が横たわっており、使用頻度が高い公園中心部にある公衆トイレに空きがなかったため、仕方なく公園の外れにある公衆トイレまでやって来た子連れの主婦が発見して通報した。
現場はそうそうたるもので、男性の遺体は個室の便座へともたれ込む形で、また女性のほうは洗面台の近くに仰向けになった状態で、やはり焼死体となって発見された。トイレの入り口には、なぜか二人の制服が綺麗に畳まれて置いてあり、その衣類の上に、最初の事件と全く同じ文言の入ったプレートが残されていた。
女性の子宮は、それが連続殺人であると誇示するかのように切り取られており、また現場に第三者の精液が残されていたのも、この第二の事件が初めてである。この精液が誰のものなのかは、言うまでもなくいまだに判明していない。もちろん、鑑識課は証拠として精液を採取し、科捜研のほうへと回しているが、DNA鑑定をしたからといって犯人が絞り込めるほど、現実は簡単ではない。
DNA鑑定とは特定の被疑者を犯人ではないと決定付けるために行われることが多く、DNAの型が一致したからといって、それで犯人と決めつけるほど警察も短絡的ではないのである。どちらかと言えば、DNAの型が一致しないからこそ、捜査線上に浮かび上がった被疑者が事件とは無関係であると証明するファクターが強い。DNA鑑定によって犯人の可能性が強い人物を絞り込むことができれば良いが、警察が国民全てのDNA情報を保持しているわけではないし、前科者のDNAを採取するにも日本では様々な規制がある。日本ではDNAすらも個人情報なのだ。
――例に漏れず現場に残された精液を鑑定したところで犯人像が浮かび上がるわけもなく、後の捜査で判明したことといえば、高校生カップルの素行が非常に悪く、何度か警察の世話になっていたことくらいだった。
0
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説



【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
旦那様には愛人がいますが気にしません。
りつ
恋愛
イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

ロンダリングプリンセス―事故物件住みます令嬢―
鬼霧宗作
ミステリー
窓辺野コトリは、窓辺野不動産の社長令嬢である。誰もが羨む悠々自適な生活を送っていた彼女には、ちょっとだけ――ほんのちょっとだけ、人がドン引きしてしまうような趣味があった。
事故物件に異常なほどの執着――いや、愛着をみせること。むしろ、性的興奮さえ抱いているのかもしれない。
不動産会社の令嬢という立場を利用して、事故物件を転々とする彼女は、いつしか【ロンダリングプリンセス】と呼ばれるようになり――。
これは、事故物件を心から愛する、ちょっとだけ趣味の歪んだ御令嬢と、それを取り巻く個性豊かな面々の物語。
※本作品は他作品【猫屋敷古物商店の事件台帳】の精神的続編となります。本作から読んでいただいても問題ありませんが、前作からお読みいただくとなおお楽しみいただけるかと思います。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる