29 / 95
明け方のラブホテルにて
10
しおりを挟む
彼女に対する先入観もあるのだろうが、迷いもなく異性に抱きつく姿には溜め息が漏れてしまう。曲がりなりにも、相手は捜査一課の人間のようであるのに、実にフレンドリーな対応である。ちなみに【ぼんばーいぇー】までが彼に付けられたあだ名なのだろうか。
「天野さん、こういうことをするから、他の課の人から誤解されるんですよ。控えたほうがいい」
男は子どもの相手をするかのように雅をあしらい、頬を膨らませた雅は、しかし宝文堂の箱を見るなり再び目を輝かせた。
「――あ、捜査一課の凡場君だよ。ここじゃ虐げられている僕達に、親しくしてくれる数少ない人間だよ」
どうやら男の名は凡場というらしい。明らかに自分より年下のようだし、この六課に事実上の左遷となってしまった自分のことは、どう思われているのだろう。凡場と目が合って会釈を交わすと、自然と互いの自己紹介となった。
「うひゃぁ! 宝文堂のプレミアム焼きプリン! これ高いから中々食べられないんだよねぇ」
「雅、とりあえずお茶だ。とびっきりに濃い緑茶だ!」
背後のほうでは田之上と雅が焼きプリンへの興奮を見せていたが、堀口は簡単に凡場と自己紹介を交わした。焼きプリンに特化した宝文堂という店に、いささか興味を抱きつつ……。
「六課に配属になって気を落とされているかもしれませんが、人間性さえ気にしなければ、ここは優秀な人間の集まりだと僕は思っていますから。今後、今日みたいに顔を出させてもらうこともあると思います。よろしくお願いします」
この署にやってきて、ようやくまともな人に会えたような気がする。堀口は「こちらこそよろしくお願いします」と、しつこいくらいに握手を交わした。
「で、今日は何の用だい? まさか、君が素直にプレゼントだけを持ってきたとは思えないんだけど」
応接セットのほうでは、プレミアム焼きプリンの品評会が始まっていたが、桂はそこには混ざらずに凡場の対応をする。どんぐりの背比べにはなるが、まだ桂のほうが、田之上や雅よりかはまともらしい。凡場は苦笑いを浮かべると、脇に挟んでいた茶色い封筒を差し出してきた。
「今、世間を賑わせている連続猟奇殺人事件の資料です。はっきり言って捜査は行き詰まっています。お上の方々からも六課に事件を回せと急かされましてね――。進藤警部はそれが丸投げみたいになるから面白くないようで、だから代理ということで私が」
「天野さん、こういうことをするから、他の課の人から誤解されるんですよ。控えたほうがいい」
男は子どもの相手をするかのように雅をあしらい、頬を膨らませた雅は、しかし宝文堂の箱を見るなり再び目を輝かせた。
「――あ、捜査一課の凡場君だよ。ここじゃ虐げられている僕達に、親しくしてくれる数少ない人間だよ」
どうやら男の名は凡場というらしい。明らかに自分より年下のようだし、この六課に事実上の左遷となってしまった自分のことは、どう思われているのだろう。凡場と目が合って会釈を交わすと、自然と互いの自己紹介となった。
「うひゃぁ! 宝文堂のプレミアム焼きプリン! これ高いから中々食べられないんだよねぇ」
「雅、とりあえずお茶だ。とびっきりに濃い緑茶だ!」
背後のほうでは田之上と雅が焼きプリンへの興奮を見せていたが、堀口は簡単に凡場と自己紹介を交わした。焼きプリンに特化した宝文堂という店に、いささか興味を抱きつつ……。
「六課に配属になって気を落とされているかもしれませんが、人間性さえ気にしなければ、ここは優秀な人間の集まりだと僕は思っていますから。今後、今日みたいに顔を出させてもらうこともあると思います。よろしくお願いします」
この署にやってきて、ようやくまともな人に会えたような気がする。堀口は「こちらこそよろしくお願いします」と、しつこいくらいに握手を交わした。
「で、今日は何の用だい? まさか、君が素直にプレゼントだけを持ってきたとは思えないんだけど」
応接セットのほうでは、プレミアム焼きプリンの品評会が始まっていたが、桂はそこには混ざらずに凡場の対応をする。どんぐりの背比べにはなるが、まだ桂のほうが、田之上や雅よりかはまともらしい。凡場は苦笑いを浮かべると、脇に挟んでいた茶色い封筒を差し出してきた。
「今、世間を賑わせている連続猟奇殺人事件の資料です。はっきり言って捜査は行き詰まっています。お上の方々からも六課に事件を回せと急かされましてね――。進藤警部はそれが丸投げみたいになるから面白くないようで、だから代理ということで私が」
0
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
伏線回収の夏
影山姫子
ミステリー
ある年の夏。俺は15年ぶりにT県N市にある古い屋敷を訪れた。大学時代のクラスメイトだった岡滝利奈の招きだった。屋敷で不審な事件が頻発しているのだという。かつての同級生の事故死。密室から消えた犯人。アトリエにナイフで刻まれた無数のX。利奈はそのなぞを、ミステリー作家であるこの俺に推理してほしいというのだ。俺、利奈、桐山優也、十文字省吾、新山亜沙美、須藤真利亜の6人は大学時代、この屋敷でともに芸術の創作に打ち込んだ仲間だった。6人の中に犯人はいるのか? 脳裏によみがえる青春時代の熱気、裏切り、そして別れ。懐かしくも苦い思い出をたどりながら事件の真相に近づく俺に、衝撃のラストが待ち受けていた。
《あなたはすべての伏線を回収することができますか?》

秘められた遺志
しまおか
ミステリー
亡くなった顧客が残した謎のメモ。彼は一体何を託したかったのか!?富裕層専門の資産運用管理アドバイザーの三郷が、顧客の高岳から依頼されていた遺品整理を進める中、不審物を発見。また書斎を探ると暗号めいたメモ魔で見つかり推理していた所、不審物があると通報を受けた顔見知りであるS県警の松ケ根と吉良が訪れ、連行されてしまう。三郷は逮捕されてしまうのか?それとも松ケ根達が問題の真相を無事暴くことができるのか!?
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
『焼飯の金将社長射殺事件の黒幕を追え!~元女子プロレスラー新人記者「安稀世」のスクープ日誌VOL.4』
M‐赤井翼
ミステリー
赤井です。
「元女子プロレスラー新人記者「安稀世《あす・きよ》」のスクープ日誌」シリーズも4作目!
『焼飯の金将社長射殺事件の黒幕を追え!』を公開させていただきます。
昨年末の「予告」から時間がかかった分、しっかりと書き込ませていただきました。
「ん?「焼飯の金将」?」って思われた方は12年前の12月の某上場企業の社長射殺事件を思い出してください!
実行犯は2022年に逮捕されたものの、黒幕はいまだ謎の事件をモチーフに、舞台を大阪と某県に置き換え稀世ちゃんたちが謎解きに挑みます!
門真、箱根、横浜そして中国の大連へ!
「新人記者「安稀世」シリーズ」初の海外ロケ(笑)です。100年の歴史の壁を越えての社長射殺事件の謎解きによろしかったらお付き合いください。
もちろん、いつものメンバーが総出演です!
直さん、なつ&陽菜、太田、副島、森に加えて今回の準主役は「林凜《りん・りん》」ちゃんという中国からの留学生も登場です。
「大人の事情」で現実事件との「登場人物対象表」は出せませんので、想像力を働かせてお読みいただければ幸いです。
今作は「48チャプター」、「400ぺージ」を超える長編になりますので、ゆるーくお付き合いください!
公開後は一応、いつも通り毎朝6時の毎日更新の予定です!
それでは、月またぎになりますが、稀世ちゃんたちと一緒に謎解きの取材ツアーにご一緒ください!
よ~ろ~ひ~こ~!
(⋈◍>◡<◍)。✧💖
宮廷の九訳士と後宮の生華
狭間夕
キャラ文芸
宮廷の通訳士である英明(インミン)は、文字を扱う仕事をしていることから「暗号の解読」を頼まれることもある。ある日、後宮入りした若い妃に充てられてた手紙が謎の文字で書かれていたことから、これは恋文ではないかと噂になった。真相は単純で、兄が妹に充てただけの悪意のない内容だったが、これをきっかけに静月(ジンユェ)という若い妃のことを知る。通訳士と、後宮の妃。立場は違えど、後宮に生きる華として、二人は陰謀の渦に巻き込まれることになって――
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
【完結】Amnesia(アムネシア)~カフェ「時遊館」に現れた美しい青年は記憶を失っていた~
紫紺
ミステリー
郊外の人気カフェ、『時游館』のマスター航留は、ある日美しい青年と出会う。彼は自分が誰かも全て忘れてしまう記憶喪失を患っていた。
行きがかり上、面倒を見ることになったのが……。
※「Amnesia」は医学用語で、一般的には「記憶喪失」のことを指します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる