巣喰ＲＡＰ【スクラップ】 ―日々の坂署捜査第六課―

明け方のラブホテルにて

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　凡場はそう言いつつ、門の外に見えるパトカーに目をやる。察するに、そのパトカーの中で連れの男が事情聴取されているのであろう。もちろん、ここでは略式的に事情をきくのであって、後から任意で詳しく事情をきくことになる。それが世間を賑わせている連続殺人事件ともなれば、何度も事情をきくことになるのは明らかだ。あくまでも捜査協力という名目であり、それに強制力はないのだが、こうも大きな事件の――しかも第一発見者ともなれば、なかば義務として警察の協力依頼に応じなければならないだろう。第一発見者を疑うのは捜査の鉄則であるし、事件に遭遇した可能性のある証人は初めて。彼に同情する部分もあるが、これも事件を解決に導くためなのだから、存分に捜査協力してもらわねばならない。

｢ちなみに連れの男は中畑勇志なかはたゆうし、28歳。先程、少し話をさせてもらったのですが、神座市役所に務める公務員だそうです。それで、これも妙な話になりますけど、どうやら被害者とは今日が初対面だったみたいなんです。つまり、被害者と恋人関係にあるわけでもなければ、夫婦でもなかった｣

　そこで話を切ると、凡場は辺りの様子を伺いつつ、しかも声のボリュームを絞って続けた。

｢その、少し言いにくいのですが、俗に言う援助交際というやつだったみたいなんですよ。出会い系のアプリを通じてやり取りをしていたそうです」

　亜紀の知っているカップル連続猟奇殺人と、次々と食い違っていく今回の事件。朝方のラブホテル前で殺害されたのは、二人連れの女性のほうだけで、男性のほうは無事。ただこれまで必ずカップルや夫婦が狙われていたにも関わらず、今回に限って狙われたのはカップルでもなければ夫婦でもない。金の上だけに成立する関係――古い言い方になるが行きずりの関係となる。

「凡場君、もしかしてこの事件は……｣

　カップル連続猟奇殺人事件の模倣、もしくは全く無関係の殺人事件なのではないか。亜紀がそれを口にする前に、尾崎が亜紀の考えを察したかのように首を横に振った。

｢いいえ、間違いなく今年に入ってから続いている例の連続殺人事件です。しっかりと例のプレートが残されていましたから。もう鑑識に回してありますが、あのプレートが現場に残されていることはマスコミにも箝口令をしいてありますからね。模倣犯ということも全くの別件ということも考えられません。これまでと異なる部分はありますが、結論は同一犯ということで落ち着くでしょうね。そろそろ捜査一課の立場も危ういかもしれない。まぁ、事件が解決するなら自分の立場くらい幾らでも捨ててやりますけどね｣