巣喰RAP【スクラップ】 ―日々の坂署捜査第六課―

鬼霧宗作

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 もちろん、こうしている今も、県警本部を筆頭に設置された捜査本部では、例の事件を追っていることであろう。

 カップル連続猟奇殺人事件。

 こうして六課へと配属される前は、堀口も一課の刑事として前線で捜査に携わっていた。

 ――事件が始まったのは今年に入ってからのこと。すでに何組ものカップルや夫婦が犠牲になっており、今月にいたっては三件……六人の犠牲者が出ている。

 事件は全て神座の周辺で起きていた。まぁ、一口に神座といっても、かなり広大なものになるが、堀口にはこの事件を追わねばならない使命がある。決して正義のためだとか、市民のためなどという偽善じみた使命感ではない。堀口という一人の男として、この事件に向き合わねばならない。それを人は正義だというのかもしれないが、堀口自身はそうではないと思っていた。

 事件の手口はどれも同じ。同一犯であることは間違いないし、それはきっと誰よりも堀口自身が確信していたことだろう。寝る間を惜しんで、ずっとこの事件と向き合ってきたのだ。時には真夜中に現場へと足を運ぶこともあった。ずっと張り込みを続けていたことだってある。どうしてそんな自分が六課へと配属されてしまったのか。辞令を決定したのは警察のお偉さんのわけであるが、できることならば理由を聞かせて欲しいところである。どうして熱心に事件に取り組む刑事を――その努力をないがしろにするべく六課送りにしたのか。もはや、言葉なき更迭である。

 六課へと転属になり、事実上は捜査を外されてしまったわけであるが、そんなことで引き下がれるほど堀口の執念は浅くない。六課の面々に打ちのめされた堀口であったが、六課に配属された以上、ここでなんとかするしかない。自分にあてがわれた机に視線を移すと、堀口は自分に言い聞かせるべく強く頷いた。

 全く仕事をする様子のない六課の面々。もう一人メンバーがいたはずであるが、ここがどういう部署なのかは、田之上と雅を見て痛感した。――問題児達の寄せ集め。仕事ができないとか、落ちこぼれとか、それ以前の問題。本人達にその気がないという目を覆いたくなるような現実に、それでも堀口は立ち向かわねばならない。

 例の事件に携われるかどうかも心配であるが、六課が警察として機能するかも大いに不安である。不安まみれで仕方がないわけだが、けれども現状に文句を言っても仕方がない。

 堀口はとりあえず自分のデスクに腰をかけると、早速荷物の整理に手をつけ始めたのであった。
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