巣喰RAP【スクラップ】 ―日々の坂署捜査第六課―

鬼霧宗作

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「仕事? そんなもんねぇよ。あー、朝方まで飲み歩いてたからよ、頭痛ぇんだ。分からないことがあったら雅に聞け。俺は寝る」

 わずかな希望は田之上の大きな欠伸にかき消され、堀口は落胆を隠せない。自然と溜め息が出るというのは、このような時のことを言うのだろう。

「いや、しかし」

 それでも堀口が食らいついたからなのか、田之上は面倒臭そうに起き上り、真顔で言い放つ。

「あのねぇ。一課は強行犯、二課は知能犯、三課は盗犯、四課は暴力犯。これだけあれば、ある程度の犯罪はフォローできるわけ。交通違反は生活交通課に任せておけばいいし、少年事件は生活少年課に任せておけばいい。つまり、俺達六課が専門的に扱う犯罪はないし、俺達がいなくても警察は充分に機能するの。分かった?」

「ですが、それでは六課の仕事は……」

 堀口の返した言葉に、雅と目を合せた田之上は、苦笑をしながら再びソファーに寝転がった。

「税金泥棒」

 その苦笑に見えたものは、もしかすると嘲笑ちょうしょうであったのかもしれない。県警本部のほうでは、存在すら不明確な六課。なにをやっているのか、どんな人間が所属しているのかさえ知られていない、本来ならばあってはならないはずの部署。これまで築き上げてきたものが本格的に崩れ始めた音を、堀口は聞いたような気がした。

「あと、強いて言うなら顔が無駄に怖いことが主たる仕事かな」

 そんな堀口の心情など知らぬといった様子で、手を止めた雅がやけに力強い口調で言い放った。

「……文句があるなら俺の両親に言ってもらえる? 息子を怖い顔に産んですいませんでしたって謝ってもらえ。――あ、堀口。尻軽も追加な。六課の仕事は税金泥棒と顔が怖いのと尻軽。はい、以上。おやすみなさい」

 結局、具体的なことはなにひとつ告げずに、田之上はいよいよ本格的に寝てしまうつもりのようだ。雅は雅で、割れた鏡をあらかた片付けると、散乱した化粧道具を全てかき集め、例の鏡台のようなデスクに向かって着席する。そして、まだ化粧が途中だったのか、鼻唄混じりで化粧を再開した。

 挙げ句の果てに田之上のいびきまで響き始め、それは着任初日から堀口を叩きのめすのには充分過ぎるほどだった。

こんな部署で上手くやって行けるのだろうか――。そんな不安を抱きながらも、堀口は小さく首を横に振る。こんなところに配属はされてしまったものの、例の事件の捜査には、なんとしてでも参加したかった。
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