巣喰RAP【スクラップ】 ―日々の坂署捜査第六課―

鬼霧宗作

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 あまりにも異様な光景に、ただただ呆気にとられるだけの堀口は、振り返ったまま動けなくなった。一応スーツは着ているものの、朝っぱらから週刊誌を広げ、間違っても仕事に取り組もうとする姿勢ではない強面の男。そもそも格好から間違っており、正に硬直した堀口へと向かってくる女性。

 第六課とは何なのか、そしてここにいる人間はそもそも刑事なのか。大体、警察は出勤簿での勤怠管理が基本であるのに、ここにはタイムカードがあるらしい。どう考えたっておかしな話だ。

 頭の中で様々な疑問がぐるぐると回り、なにひとつとして答えが出ないまま、とうとう堀口は女性とぶつかった。

 彼女も直前まで堀口の存在に全く気付いていなかったようで、抱きつく形で堀口とぶつかると、小さく悲鳴を上げて共々に倒れ込んだ。

 鏡の割れる音とバッグの中身が散らばったであろう音。仰向けに倒れた堀口に馬乗りになる形で、女性は小さく頭を振った。

「あ痛たたたた。あ、あの……誰ですかぁ?」

 彼女はようやく状況を飲み込んだらしく、苦笑いを浮かべる。前のめりになったせいか、キャミソールからは胸元が見えていた。慌てて目をそらすと、そこでようやく強面の男が立ち上がり、こちらへとやってきた。

「ったく……。こういうアクシデントでも臨戦態勢の姿勢を取れるって、お前マジでビッチだな。選ばれしビッチか。ほら、そこ早くどいてやれよ」

 強面の男の言葉に、女性は頬をふくらませながら立ち上がる。

「ビッチじゃないもん。ちょっとふわふわしてるだけだもん」

「おもに下半身がな! ほら、立てよ」

 女性からの反論を軽く切り返すと、強面の男が堀口に手を差し伸べてくれる。彼女に対する言い草は、セクシャルハラスメントにはならないのだろうか。そんなことを考えながらも、強面の男に差し出された手を掴むと、堀口はようやく起き上がった。

 いまだに自分が置かれた立場を理解できなかったし、着任早々に見せ付つけられた光景の凄まじさに、やはり六課転属の話が嘘だったのではないかと疑ってしまう。けれども、堀口の目の前にいる二人は、どちらも見たことのある顔だった。もっとも、こうして会うのは初めてであり、あくまでも資料上での話ではあるが……。

「ちょいと新人いじめでもして暇を潰そうと思ったが、気が変わった。俺、田之上。で、そこの選ばれし伝説のビッチが雅だ。うまいことやれば一発やらせてくれるかもしれん」

 強面の男……田之上はそう言うと、頭をかきながらソファーへと戻る。今、しれっと、とんでもない発言をしたような気がする。
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