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ようこそ捜査第六課へ
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背筋が凍りつき、心臓は早鐘を打つ。臭いし気持ち悪い。全身の皮膚という皮膚が、灯油という有害物質を吸い上げ、体内に取り入れてしまう。
「お、俺が何をしたって言……」
込み上げる恐怖感を押しのけ口を開いたが、とうとう頭の上から灯油をかけられ、それが口に入ってしまったがゆえにむせてしまう。思わず飲み込んでしまった少量の灯油を吐き出そうと、指を喉の奥に突っ込んだ。盛大にその場に吐き散らす。呼吸に合わせて傷口からは出血が続いている。吐く際に逆流したものが鼻に入ったのか、妙に鼻が痛かった。全身から立ち上る灯油の臭いも気持ち悪いし。自分の皮膚がどんどんと灯油を体内へと吸い上げているみたいな感覚が嫌だった。
「リア充は爆発するんだ。リア充は爆発しなければならない」
実に嫌な音が聞こえた。それが、マッチを擦る音だったのか、それともジッポライターの蓋を開ける音だったのか――分からないが、確かに生理的に嫌な音だった。本能的にも嫌な音だった。
「あー、やばいやばいやばい――あぁっ!」
男はそう声を上げると、一層激しく陰部を擦り、そして彼の目の前で射精した。頭がおかしいとしか思えない。こんな状況で達することができるなんて、狂人でなければ無理だ。男が射精の余韻に浸っている隙を伺って、もう一度だけ逃げ出そうとするが、しかし彼の寿命はここで尽きる運命にあるようだった。
男が何かを宙に放り投げる。彼は律儀にもそれを目で追ってしまった。自分の胸元辺りに落ちたそれは、まだ燃え続けているジッポライターだった。それを確認した瞬間、目の前が真っ赤に燃え上がった。周囲の酸素を炎が喰らい、彼はまず呼吸が苦しくなる。けれども呼吸ができないわけではなく、また意識を失うこともなく、ぶすぶすと自分の体が燃え行くのを見守ることしかできない。
「嫌っ! やめて――お願いだからやめてっ!」
ある種の意味で悟ってしまった彼の耳に、彼女の悲痛な声が飛び込んでくる。なんだ――こっちに男が気を取られているうちに逃げれば良かったものを。
「誰かぁぁぁぁぁっ! 誰か助けてぇぇぇぇぇっ! 助けて下さいぃぃぃぃぃ!」
涙をこぼしながら、そして鼻水をたらしながら助けを求める彼女の姿が目に浮かんだ。でも、助けようとは思わなかった。どうせ最初から体目当てで、すぐに捨てようと思っていた女だから。だからまぁ、もうなんでもいいか――。彼は炎の中にあちらの世界を見て、大きく溜め息を漏らした。
「お、俺が何をしたって言……」
込み上げる恐怖感を押しのけ口を開いたが、とうとう頭の上から灯油をかけられ、それが口に入ってしまったがゆえにむせてしまう。思わず飲み込んでしまった少量の灯油を吐き出そうと、指を喉の奥に突っ込んだ。盛大にその場に吐き散らす。呼吸に合わせて傷口からは出血が続いている。吐く際に逆流したものが鼻に入ったのか、妙に鼻が痛かった。全身から立ち上る灯油の臭いも気持ち悪いし。自分の皮膚がどんどんと灯油を体内へと吸い上げているみたいな感覚が嫌だった。
「リア充は爆発するんだ。リア充は爆発しなければならない」
実に嫌な音が聞こえた。それが、マッチを擦る音だったのか、それともジッポライターの蓋を開ける音だったのか――分からないが、確かに生理的に嫌な音だった。本能的にも嫌な音だった。
「あー、やばいやばいやばい――あぁっ!」
男はそう声を上げると、一層激しく陰部を擦り、そして彼の目の前で射精した。頭がおかしいとしか思えない。こんな状況で達することができるなんて、狂人でなければ無理だ。男が射精の余韻に浸っている隙を伺って、もう一度だけ逃げ出そうとするが、しかし彼の寿命はここで尽きる運命にあるようだった。
男が何かを宙に放り投げる。彼は律儀にもそれを目で追ってしまった。自分の胸元辺りに落ちたそれは、まだ燃え続けているジッポライターだった。それを確認した瞬間、目の前が真っ赤に燃え上がった。周囲の酸素を炎が喰らい、彼はまず呼吸が苦しくなる。けれども呼吸ができないわけではなく、また意識を失うこともなく、ぶすぶすと自分の体が燃え行くのを見守ることしかできない。
「嫌っ! やめて――お願いだからやめてっ!」
ある種の意味で悟ってしまった彼の耳に、彼女の悲痛な声が飛び込んでくる。なんだ――こっちに男が気を取られているうちに逃げれば良かったものを。
「誰かぁぁぁぁぁっ! 誰か助けてぇぇぇぇぇっ! 助けて下さいぃぃぃぃぃ!」
涙をこぼしながら、そして鼻水をたらしながら助けを求める彼女の姿が目に浮かんだ。でも、助けようとは思わなかった。どうせ最初から体目当てで、すぐに捨てようと思っていた女だから。だからまぁ、もうなんでもいいか――。彼は炎の中にあちらの世界を見て、大きく溜め息を漏らした。
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