上 下
209 / 231
朝日に包まれながら【午前7時】

朝日に包まれながら【午前7時】1

しおりを挟む
【午前7時 春日士郎 小学校近郊】

 動くのは夜が明けてからにしよう――そのように、みんなに提案できたのは、まだタイムリミットまで時間があったこと、そして自分の推測に絶対的な自信があったからだった。体力を回復させるという意味でも、もう少しみんなに休息が必要だと考えたこともあるし、何よりも辺りが暗い時間帯から動くのは危険だ。学校内の安全が確保できていたから忘れそうになるが、この街は罠が張り巡らされた街なのだから。

「それにしても、どの辺りにあるものなのかねぇ。解答に必要な【テレフォンボックス】とやらは」

 辺りを警戒しながら呟く水落。それに対して先頭を歩く――いいや、歩かせている比嘉が口を開いた。

「さぁな。これで【テレフォンボックス】を見つけることができずにタイムオーバーになったら笑い話にもならねぇがなぁ」

 辺りが明るくなる頃を見計らって学校を後にした春日達は、解答に必要な【テレフォンボックス】を探して街の中を進んでいた。もしかすると、これまでの道中で見かけていたのかもしれないが、とにもかくにも生き延びることを最優先にしたせいで、意識的にどこにあったのか覚えてはいない。なんとなく、それらしきものを見たような気がする――というレベルであり、そんな曖昧な記憶を頼りに街をさまようわけにはいかなかった。

「後、ここに来て罠にかかって死ぬのも御免だからね。あんた達、しっかりと警戒しなさいよ」

 比嘉を筆頭にして、男性陣が前になる形で街の中を行軍している春日達。比較的安全な後列から声をあげたのは晴美である。

「そんなん、言われんでも分かっとるわ」

 ぶっきらぼうに深田が答えると、それを鼻で笑い飛ばした比嘉が「俺にこうやって先頭を歩かせてる奴らが言うんじゃねぇよ」と漏らした。すっかり抵抗する気が失せたのか、それとも春日の推測を聞いて、生きることに賭けることにしたのか。どちらなのかは分からないが、ここまでにいたるまで比嘉が妙な行動を見せることはなかった。やろうと思えば今すぐにでも抵抗することはできるのであるが、それをしない辺りを察するに、彼も元よりそこまで狂気じみた男ではないのかもしれない。彼を狂わせたのは、きっとこの環境だったのだと思いたい。

「二手に分かれて探してほうが早そうな気がするのだが――」

 もう、それがレプリカであることは知れ渡っているし、誰かに向ける必要もなくなったのであるが、ライフル銃を離さず持ち歩く陸士長が口を開いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ミノタウロスの森とアリアドネの嘘

鬼霧宗作
ミステリー
過去の記録、過去の記憶、過去の事実。  新聞社で働く彼女の元に、ある時8ミリのビデオテープが届いた。再生してみると、それは地元で有名なミノタウロスの森と呼ばれる場所で撮影されたものらしく――それは次第に、スプラッター映画顔負けの惨殺映像へと変貌を遂げる。  現在と過去をつなぐのは8ミリのビデオテープのみ。  過去の謎を、現代でなぞりながらたどり着く答えとは――。  ――アリアドネは嘘をつく。 (過去に別サイトにて掲載していた【拝啓、15年前より】という作品を、時代背景や登場人物などを一新してフルリメイクしました)

宮廷の九訳士と後宮の生華

狭間夕
キャラ文芸
宮廷の通訳士である英明(インミン)は、文字を扱う仕事をしていることから「暗号の解読」を頼まれることもある。ある日、後宮入りした若い妃に充てられてた手紙が謎の文字で書かれていたことから、これは恋文ではないかと噂になった。真相は単純で、兄が妹に充てただけの悪意のない内容だったが、これをきっかけに静月(ジンユェ)という若い妃のことを知る。通訳士と、後宮の妃。立場は違えど、後宮に生きる華として、二人は陰謀の渦に巻き込まれることになって――

神暴き

黒幕横丁
ミステリー
――この祭りは、全員死ぬまで終われない。 神託を受けた”狩り手”が一日毎に一人の生贄を神に捧げる奇祭『神暴き』。そんな狂気の祭りへと招かれた弐沙(つぐさ)と怜。閉じ込められた廃村の中で、彼らはこの奇祭の真の姿を目撃することとなる……。

ロンダリングプリンセス―事故物件住みます令嬢―

鬼霧宗作
ミステリー
 窓辺野コトリは、窓辺野不動産の社長令嬢である。誰もが羨む悠々自適な生活を送っていた彼女には、ちょっとだけ――ほんのちょっとだけ、人がドン引きしてしまうような趣味があった。  事故物件に異常なほどの執着――いや、愛着をみせること。むしろ、性的興奮さえ抱いているのかもしれない。  不動産会社の令嬢という立場を利用して、事故物件を転々とする彼女は、いつしか【ロンダリングプリンセス】と呼ばれるようになり――。  これは、事故物件を心から愛する、ちょっとだけ趣味の歪んだ御令嬢と、それを取り巻く個性豊かな面々の物語。  ※本作品は他作品【猫屋敷古物商店の事件台帳】の精神的続編となります。本作から読んでいただいても問題ありませんが、前作からお読みいただくとなおお楽しみいただけるかと思います。

同僚に密室に連れ込まれてイケナイ状況です

暗黒神ゼブラ
BL
今日僕は同僚にごはんに誘われました

伏線回収の夏

影山姫子
ミステリー
ある年の夏。俺は十五年ぶりに栃木県日光市にある古い屋敷を訪れた。某大学の芸術学部でクラスメイトだった岡滝利奈の招きだった。かつての同級生の不審死。消えた犯人。屋敷のアトリエにナイフで刻まれた無数のXの傷。利奈はそのなぞを、ミステリー作家であるこの俺に推理してほしいというのだ。俺、利奈、桐山優也、十文字省吾、新山亜沙美、須藤真利亜の六人は、大学時代にこの屋敷で共に芸術の創作に打ち込んだ仲間だった。グループの中に犯人はいるのか? 俺の脳裏によみがえる青春時代の熱気、裏切り、そして別れ。懐かしくも苦い思い出をたどりながら事件の真相に近づく俺に、衝撃のラストが待ち受けていた。 《あなたはすべての伏線を回収することができますか?》

未亡人クローディアが夫を亡くした理由

臣桜
キャラ文芸
老齢の辺境伯、バフェット伯が亡くなった。 しかしその若き未亡人クローディアは、夫が亡くなったばかりだというのに、喪服とは色ばかりの艶やかな姿をして、毎晩舞踏会でダンスに興じる。 うら若き未亡人はなぜ老齢の辺境伯に嫁いだのか。なぜ彼女は夫が亡くなったばかりだというのに、楽しげに振る舞っているのか。 クローディアには、夫が亡くなった理由を知らなければならない理由があった――。 ※ 表紙はニジジャーニーで生成しました

書籍化の打診が来ています -出版までの遠い道のり-

ダイスケ
エッセイ・ノンフィクション
ある日、私は「書籍化の打診」というメールを運営から受け取りました。 しかしそれは、書籍化へと続く遠い道のりの一歩目に過ぎなかったのです・・・。 ※注:だいたいフィクションです、お察しください。 このエッセイは、拙作「異世界コンサル株式会社(7月12日に電子書籍も同時発売)」の書籍化の際に私が聞いた、経験した、知ったことの諸々を整理するために書き始めたものです。 最初は活動報告に書いていたのですが「エッセイに投稿したほうが良い」とのご意見をいただいて投稿することにしました。 上記のような経緯ですので文章は短いかもしれませんが、頻度高く更新していきますのでよろしくおねがいします。

処理中です...