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ダイニング イン ザ ダイ【午後8時〜午後9時】
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人とは、元々そこまで醜い存在なのか。そして脆い存在なのか。もしかすると、この状況そのものが、このゲームにおける罠なのかもしれない。
なんにせよ、今は片岡が心配である。どうにもならないことは分かっているが、しかし指をくわえているだけなのは嫌だった。
「陸士長、立てるか?」
水落が陸士長に手を差し出すと、少しばかり戸惑ったような様子を見せた後、それを掴んで立ち上がる。だが、足元が覚束ない様子であったため、水落がすかさず肩を貸す。誰もがボロボロだった。精神的にも、肉体的にも。
ふと、何気ない瞬間のことだった。急に背筋がぞくりとした。嫌な汗が額から頬へと伝う。ここではあまり聞きたくないメロディーが流れ始めてしまったからであろう。
どうしてもキャンプを連想してしまうメロディーの後に、音割れしたアナウンスが入る。それは、一度に五人もの人間の死を報せる残酷なアナウンスだった。
まず小学校にて命を落としたのが前橋智美という人物。状況から察するに、彼女こそがナタ女だったのであろう。あの高さから大穴に落ちたのだから、まず生きてはいないとは思っていたが、これで彼女の死亡が確定した。ただ、死亡が確定したのはナタ女だけではなかった。春日達がもっとも聞きたくなかった名前が、残念なことにアナウンスされてしまったのだった。
片岡久志――。あり得ないことであるが、人違いだと思いたかった。馬鹿げた可能性だが、同姓同名の人間がいるのではないかと疑った。そのようにしてごまかしてはみるものの、頭の中では分かっていたのだ。覚悟はしていたし、こうなることは分かっていたのに、けれども認めることを拒否する自分がいた。
「くそっ――どうして」
水落がぽつりと呟き、肩を借りていた陸士長は目を閉じて首を横に振る。春日はというと、生まれて初めて頭が真っ白になるという経験をしていた。続いて学校ではないどこかで三人もの人間が死亡したというアナウンスを聞いたが、しかし全く頭の中に入ってこなかった。
水落、陸士長、春日の三人は、特別何か言葉を交わすでもなく、ただただ各々教室を目指すことで精一杯だった。少なくとも、春日はそうだった。手足の先が痺れ、現実感と剥離した浮遊感のようなものに包まれる。
あらかじめ覚悟していたことであったが、教室に戻るなり深田が殴りかかってきた。甘んじて頬に拳を叩き込まれる春日。人に殴られるのが、ここまで痛みを伴うものだとは思わなかった。
なんにせよ、今は片岡が心配である。どうにもならないことは分かっているが、しかし指をくわえているだけなのは嫌だった。
「陸士長、立てるか?」
水落が陸士長に手を差し出すと、少しばかり戸惑ったような様子を見せた後、それを掴んで立ち上がる。だが、足元が覚束ない様子であったため、水落がすかさず肩を貸す。誰もがボロボロだった。精神的にも、肉体的にも。
ふと、何気ない瞬間のことだった。急に背筋がぞくりとした。嫌な汗が額から頬へと伝う。ここではあまり聞きたくないメロディーが流れ始めてしまったからであろう。
どうしてもキャンプを連想してしまうメロディーの後に、音割れしたアナウンスが入る。それは、一度に五人もの人間の死を報せる残酷なアナウンスだった。
まず小学校にて命を落としたのが前橋智美という人物。状況から察するに、彼女こそがナタ女だったのであろう。あの高さから大穴に落ちたのだから、まず生きてはいないとは思っていたが、これで彼女の死亡が確定した。ただ、死亡が確定したのはナタ女だけではなかった。春日達がもっとも聞きたくなかった名前が、残念なことにアナウンスされてしまったのだった。
片岡久志――。あり得ないことであるが、人違いだと思いたかった。馬鹿げた可能性だが、同姓同名の人間がいるのではないかと疑った。そのようにしてごまかしてはみるものの、頭の中では分かっていたのだ。覚悟はしていたし、こうなることは分かっていたのに、けれども認めることを拒否する自分がいた。
「くそっ――どうして」
水落がぽつりと呟き、肩を借りていた陸士長は目を閉じて首を横に振る。春日はというと、生まれて初めて頭が真っ白になるという経験をしていた。続いて学校ではないどこかで三人もの人間が死亡したというアナウンスを聞いたが、しかし全く頭の中に入ってこなかった。
水落、陸士長、春日の三人は、特別何か言葉を交わすでもなく、ただただ各々教室を目指すことで精一杯だった。少なくとも、春日はそうだった。手足の先が痺れ、現実感と剥離した浮遊感のようなものに包まれる。
あらかじめ覚悟していたことであったが、教室に戻るなり深田が殴りかかってきた。甘んじて頬に拳を叩き込まれる春日。人に殴られるのが、ここまで痛みを伴うものだとは思わなかった。
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