上 下
173 / 231
ダイニング イン ザ ダイ【午後8時〜午後9時】

ダイニング イン ザ ダイ【午後8時〜午後9時】1

しおりを挟む
【午後8時5分 本間アガサ 小学校家庭科調理室】

 塩を加えたお湯が、音を立てて沸騰を始めた。どうやら、そろそろ頃合いのようである。

「あの、池田さん。男の人って、どれくらいの量を食べるんでしょうか? 私、男の人に料理を作ってあげるのって初めてなんで……」

 アガサの目の前にあるテーブルの上には、棚の中から見つけた段ボール箱がある。中には、ホールトマトの缶詰と、パスタがぎっしりと詰まっていた。それを見た時点でメニューはほとんど決定。ベタながらも、簡単にトマトパスタで済ませることになり、現在にいたる。

「うーむ、一人一袋くらいでも良いんじゃないか? 別に男性でも食の細い人もいるからな」

 大鍋の具合を見ながら陸士長が返してくる。アガサはあまり料理が得意ではなかった。特に目分量というものが苦手であり、きっちりと量を計らなければ気が済まないところがある。ゆえに、茹でるパスタの量だって、何かしらのルールを設けたかった。

「では、男性が一袋、女性が半袋で計算して、パスタを茹でましょうか――」

 普通、パスタ一袋となると、かなりの量が入っていたりするのであるが、ここで見つけたパスタは比較的小分けになっている。男性が一袋、女性が半袋の計算で問題ないだろう。

「それにしても、ここまできたら風呂くらいの設備があっても良さそうなのにな。さすがに汗を流したいところだ」

 陸士長はそう言うと額の汗を拭った。鍋では水が沸騰しているせいもあり、辺りはじっとりと蒸し暑い。水道、ガス、電気などのライフラインは全て揃っているくせに、風呂に入れるような施設がないのは残念だ。元が学校なのだから、高望みすること自体が間違っているのかもしれないが、誰でもお風呂に入りたいとは思うだろう。アガサは陸士長の言葉に相槌を打つ。

「そうですよねぇ。私も髪の毛がボサボサだし、せめてシャワーでもいいから浴びたいです」

 アガサはそう言いながらもパスタを大鍋に投入。おもむろにパスタの袋を開けては鍋にぶっ込み、また袋を開けては鍋にぶっ込みを繰り返す。最後に半袋分を鍋に入れて完了。後は茹で上がるのを待つだけだ。

 アガサは続いてソース作りに着手する。とりあえず適当にホールトマトを煮込めば、それなりのソースになるだろう。調味料などの細かいものは見つからなかったため、実にナチュラルというか自然主義の味付けになるが、きっと味は悪くないと思う。調味料が入るとなると苦手な目分量が絡んでくるし。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ロンダリングプリンセス―事故物件住みます令嬢―

鬼霧宗作
ミステリー
 窓辺野コトリは、窓辺野不動産の社長令嬢である。誰もが羨む悠々自適な生活を送っていた彼女には、ちょっとだけ――ほんのちょっとだけ、人がドン引きしてしまうような趣味があった。  事故物件に異常なほどの執着――いや、愛着をみせること。むしろ、性的興奮さえ抱いているのかもしれない。  不動産会社の令嬢という立場を利用して、事故物件を転々とする彼女は、いつしか【ロンダリングプリンセス】と呼ばれるようになり――。  これは、事故物件を心から愛する、ちょっとだけ趣味の歪んだ御令嬢と、それを取り巻く個性豊かな面々の物語。  ※本作品は他作品【猫屋敷古物商店の事件台帳】の精神的続編となります。本作から読んでいただいても問題ありませんが、前作からお読みいただくとなおお楽しみいただけるかと思います。

ミノタウロスの森とアリアドネの嘘

鬼霧宗作
ミステリー
過去の記録、過去の記憶、過去の事実。  新聞社で働く彼女の元に、ある時8ミリのビデオテープが届いた。再生してみると、それは地元で有名なミノタウロスの森と呼ばれる場所で撮影されたものらしく――それは次第に、スプラッター映画顔負けの惨殺映像へと変貌を遂げる。  現在と過去をつなぐのは8ミリのビデオテープのみ。  過去の謎を、現代でなぞりながらたどり着く答えとは――。  ――アリアドネは嘘をつく。 (過去に別サイトにて掲載していた【拝啓、15年前より】という作品を、時代背景や登場人物などを一新してフルリメイクしました)

宮廷の九訳士と後宮の生華

狭間夕
キャラ文芸
宮廷の通訳士である英明(インミン)は、文字を扱う仕事をしていることから「暗号の解読」を頼まれることもある。ある日、後宮入りした若い妃に充てられてた手紙が謎の文字で書かれていたことから、これは恋文ではないかと噂になった。真相は単純で、兄が妹に充てただけの悪意のない内容だったが、これをきっかけに静月(ジンユェ)という若い妃のことを知る。通訳士と、後宮の妃。立場は違えど、後宮に生きる華として、二人は陰謀の渦に巻き込まれることになって――

パラダイス・ロスト

真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。 ※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。

神暴き

黒幕横丁
ミステリー
――この祭りは、全員死ぬまで終われない。 神託を受けた”狩り手”が一日毎に一人の生贄を神に捧げる奇祭『神暴き』。そんな狂気の祭りへと招かれた弐沙(つぐさ)と怜。閉じ込められた廃村の中で、彼らはこの奇祭の真の姿を目撃することとなる……。

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

旧校舎のフーディーニ

澤田慎梧
ミステリー
【「死体の写った写真」から始まる、人の死なないミステリー】 時は1993年。神奈川県立「比企谷(ひきがやつ)高校」一年生の藤本は、担任教師からクラス内で起こった盗難事件の解決を命じられてしまう。 困り果てた彼が頼ったのは、知る人ぞ知る「名探偵」である、奇術部の真白部長だった。 けれども、奇術部部室を訪ねてみると、そこには美少女の死体が転がっていて――。 奇術師にして名探偵、真白部長が学校の些細な謎や心霊現象を鮮やかに解決。 「タネも仕掛けもございます」 ★毎週月水金の12時くらいに更新予定 ※本作品は連作短編です。出来るだけ話数通りにお読みいただけると幸いです。 ※本作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。 ※本作品の主な舞台は1993年(平成五年)ですが、当時の知識が無くてもお楽しみいただけます。 ※本作品はカクヨム様にて連載していたものを加筆修正したものとなります。

同僚に密室に連れ込まれてイケナイ状況です

暗黒神ゼブラ
BL
今日僕は同僚にごはんに誘われました

処理中です...