BOOBY TRAP 〜僕らが生きる理由〜

鬼霧宗作

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暴走するモラルと同調圧力【午後5時〜午後6時】

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 いくら口では強がっていても、晴美もまた不安だったのであろう。彼女の口から安堵の溜め息らしきものが漏れた音をアガサは聞き逃さなかった。

 あの男は刃物を持っている。それだけならばまだしも、何よりも恐ろしいのは、あの男が人を人だと思っていない節があるということ。やろうと思えば平気で人を殺せるタイプ。外面の良さと、息をするかのように口から出る嘘。そして、簡単にさらけ出した本性。アガサの知識の中で考えるに――あの男はサイコパスなのではないだろうか。

「どうします? 窓を開けて大声で助けを求めます?」

 この学校にはどういうわけだか、しっかりと電気が通っている。点けようと思えば教室の電気を点けることもできるのであるが、しかしアガサ達はあえて電気を点けずにいた。まだ完全に日が落ちたわけではないため、作業をする分には問題なかったし、迂闊に電気を点けてしまうことは、あの男に自分達の居場所を伝えてしまうようなもの。ゆえに、外から学校を見たところで、アガサ達の存在は気づかれない。よって、こちらから何らかの方法でコンタクトを取る必要がある。

「そんなことをしたら、あの男に声で気づかれてしまうかもしれない。それは、私達の居場所をあの男にしらせることになるかもしれないし、下手をすると彼らの存在さえも気づかせてしまうことになるわ」

 窓の外の人影を眺めながら、ぽつりと呟く晴美。彼女の言っていることは正論ではあるが、しかしならばどうやって彼らとコンタクトを取ればいいのか。

「だったらどうやって――」

「多少リスクを背負うことになるけど、彼らとコンタクトを取ることを最優先に考えたほうがいいわね。私に考えがあるわ」

 そう言うと、なぜだか教室の電気のスイッチがある場所へと向かう晴美。日はすっかりと落ち、とうとうアガサと晴美も、お互いをシルエットとしか認識できなくなりつつある。あの男に見つからないようにする対策ではあるが、一晩中ずっと電気を点けられないというのは厳しいものがある。

 同じ学校内に潜むサイコパス。抗うことを決めた晴美とアガサ。そして、助けに舟とばかりに現れた他の勢力。晴美はどのような手段で彼らとコンタクトを取るつもりなのか。そして、これからどのような展開を見せるのか。なんとなく置いてきぼりにされているアガサは、闇に包まれつつある教室の中で、良い方向へと事が運んでくれることを強く祈るのであった。
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