BOOBY TRAP 〜僕らが生きる理由〜

鬼霧宗作

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暴走するモラルと同調圧力【午後5時〜午後6時】

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 案の定、彼女の男を見る目とやらは正確であり、あの男の本性をしっかりと見抜いていた。彼の言葉が巧みだったとはいえ、完全に信じ切ってしまっていたアガサとは大違いだ。これが、女性としての経験の差というやつなのだろうか。

「なんにせよ、あぁいう勘違い男の好きにさせるわけにはいかないわ。女を舐めると痛い目に遭うってことを思い知らせてやるんだから」

 晴美はそう言って息巻く。見た目は美人で、しかしどこかキツそうな印象のある彼女であるが、正しく印象通り気の強い性格なのであろう。そうでなければ、あの場面で彼の股間を蹴り上げるなんて真似はできないだろうし。

「でも、相手は刃物を持ってます。瀬戸さんは偽物だって言ってましたけど、私はどうしても偽物には見えないんです。それに、私のモデルガンはそこまで殺傷能力があるように思えないし、やっぱり男の人と女の人とでは力の差が――」

 アガサは自分なりの意見を言ったつもりだったのであるが、晴美は「だから晴美でいいって」と溜め息をもらして続ける。

「まぁ、そんなに弱気になるから女が舐められるのよ。今の時代、男尊女卑はもう古いわ」

 晴美はバリケードに仕立て上げたばかりのロッカーを開けると、モップを取り出した。それをアガサのほうへと放り投げてくる。辛うじてキャッチすると、晴美はさらにロッカーの中からデッキブラシを取り出した。

「もしあの男が来たら、問答無用でフルボッコよ。いいわね?」

 そう言ってデッキブラシを構えてみせた晴美は、どこか心強く、しかしどこか寂しげにも見えた。無理に強がっているような印象があったのだ。アガサの考えが伝わってしまったのか、晴美はやや顔をうつむける。

「――実はね、私のせいで行動を一緒にしていた人が死んだの。その人のおかげで私の今がある。だから足搔けるだけ足掻いてやりたいの。この命は私だけのものじゃないから、それを助けてくれた人に顔向けできるように、私はあらがいたい。アガサ……協力してくれるわよね?」

 アガサは晴美のこれまでを知らない。あえて聞かなかったという節もあるのだが、思っていた以上に、壮絶な経験をすでにしているようだった。

「私だって一人でやれることには限りがあります。それに、こんな馬鹿げたことはさっさと終わりにしたい。私なんかで良ければ、いくらでも力をお貸しします。いえ、むしろ私に力を貸してください」

 アガサと晴美。二人の出会いかたは例の男のせいで最悪ではあるが、この状況下において実に心強い味方ができた。まるで根拠のない自信を持っている晴美は、そばにいるだけで心強かった。
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