BOOBY TRAP 〜僕らが生きる理由〜

鬼霧宗作

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暴走するモラルと同調圧力【午後5時〜午後6時】

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 村山と繋いだ手が頼みの綱だったのであろう。それを失った真子はバランスを崩した。振り返ると、真子が両手を前に突き出して盛大にすっ転んでいた。戻るべきか迷った村山だったが、情けないことに躊躇ちゅうちょしてしまった。それほどに転がる球体の速度が速いように見えたのだ。

 村山の隣を一陣の風が吹き抜けた。村山の少し先を走っていた吉良が引き返し、真子のところへと向かったのだ。村山はそれを見届けると、改めて坂を転がるように駆けた。振り返ったのはこれが最後であり、とにかく必死になって坂を転がり落ちた。

 坂を抜けると脇道にそれる。先に逃げ出した磯部はもちろんのこと、少し遅れて真子もやってきた。球体が村山達の目の前を通り過ぎ、そして水田の中に転がり落ちた。――真子を助けに向かったはずの吉良の姿はなかった。

 真子はただ泣きじゃくるばかりで、吉良のことを磯部が聞いても首を横に振るばかり。責め立てるように吉良のことを問う磯部の姿に、なんだか腹が無性に立った。さすがに間に割って入って、彼女のことを庇った。高校生に意見されるのが面白くなかったのか、磯部は明らかに不機嫌そうな反応を見せていた。

 ――少しばかり落ち着いた真子の話だと、吉良に助け起こされたところまでは覚えているが、それから先は逃げるのに必死で覚えていないらしい。あんな状況だからパニックを起こして当然だろうし、自分のことだけで精一杯になるのは仕方がない。まぁ、散々リーダーシップを取っていたくせに、真っ先に逃げ出した大人はどうかと思うが。

 吉良はどうなってしまったのか――。球体が転がり落ち、もう安全であろうと思われる坂に引き返すことにした。結果、血痕らしきもの以外は何も見つからなかった。もちろん、吉良の遺体も見つかっていない。この時点では吉良の訃報がアナウンスされることもなかった。

 改めて両側に盛られた盛り土の壁を見上げる。このためだけに作られたものなのだろうか。そこで、ある可能性に気づいた。球体が転がった坂は、盛り土によって両側に直角の壁があった。ここを球体が転がったわけだが、もしかすると隙間が存在したかもしれないのだ。

 坂に対して両側に直角の土壁。ここに天井があると想定すると、この坂を前から見た構造は四角形になる。そして、四角形の中に円形を描いた時――必ずその四隅に隙間ができる。四角形の中に円形をぴったりと収めることは不可能なのである。つまり、その隙間に逃げ込むことができれば助かるかもしれない。
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