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暴走するモラルと同調圧力【午後5時〜午後6時】
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【午後5時50分 村山茂利 宮垣街郊外】
良く言えば長閑な田園風景。悪く言えば田園しかない田舎道。舗装されていない砂利道に、いくつもの足音と、すすり泣く声が響いていた。
――突然の訃報は、ほんの少し前にアナウンスされた。彼こと村山茂利からすれば仕方がないとしか思えないのであるが、村山と合流する以前から行動を共にしていた野沢真子からすれば、やはりショックだったのだろう。メソメソと泣き続けていた。
「いい加減、泣くのはやめにしよう。もう少しで助かるはずだから」
合流してからずっとリーダーシップを取っている磯部政美が口を開く。なんでもIT関係の会社を経営しているらしいが、それに似合わぬがっしりとした体格の人である。年齢は直接聞いてはいないが、見たところ40代くらいであろう。こんな状況でもスーツをしっかり着こなしている辺り、さすがはサラリーマンなのだなと思う。ちなみに男性である。
「吉良さん――死んじゃった。やっぱりあの時、しっかりと吉良さんのこと探してあげるべきだったんだよ」
グレーのブレザーに赤を基調としたチェック柄のスカート。村山と同じく高校生の真子が涙ながらに漏らす。有名なお嬢様高校の生徒らしいが、そのチェック柄のスカートは薄汚れており、お嬢様高校の雰囲気は全くない。
この非現実的な状況で目覚め、最初に村山が出会った人間が磯部だった。一方、村山と同じように、真子は吉良文人と合流した。そして、互いのペアが合流して現在にいたる。
しかし、真子と一緒にいたはずの吉良の姿はなかった。彼は罠に巻き込まれてしまい、それ以降は消息不明。つい先ほどアナウンスで訃報――亡くなったことを知らされた。
「吉良さんが私を庇ってくれたから、私はこうして生きてる。それなのに私は見捨てた。最低だ」
真子は自分のことを責め、苦しんでいるようだった。磯部が何を言っても無駄であったが、それでも村山も声をかけ続けていた。
「あれは仕方がなかったんだ。君は悪くないよ――」
ぽつりと漏らした村山の言葉は、しかし残念ながら真子の耳には届かないようだった。それは仕方がないことかもしれない。少なくとも真子と行動を共にしてきた吉良という男を、磯部と村山は見捨ててしまったのだから。
この街にはいたるところに罠が仕掛けられている。しかし、まさか最初の一発目で遭遇した罠が、あそこまでベタベタで捻りのないものだとは思いもしなかった。まさか、岩が転がってくるなどという、お約束の罠が仕掛けられているなんて、誰が予想できたろうか。
良く言えば長閑な田園風景。悪く言えば田園しかない田舎道。舗装されていない砂利道に、いくつもの足音と、すすり泣く声が響いていた。
――突然の訃報は、ほんの少し前にアナウンスされた。彼こと村山茂利からすれば仕方がないとしか思えないのであるが、村山と合流する以前から行動を共にしていた野沢真子からすれば、やはりショックだったのだろう。メソメソと泣き続けていた。
「いい加減、泣くのはやめにしよう。もう少しで助かるはずだから」
合流してからずっとリーダーシップを取っている磯部政美が口を開く。なんでもIT関係の会社を経営しているらしいが、それに似合わぬがっしりとした体格の人である。年齢は直接聞いてはいないが、見たところ40代くらいであろう。こんな状況でもスーツをしっかり着こなしている辺り、さすがはサラリーマンなのだなと思う。ちなみに男性である。
「吉良さん――死んじゃった。やっぱりあの時、しっかりと吉良さんのこと探してあげるべきだったんだよ」
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しかし、真子と一緒にいたはずの吉良の姿はなかった。彼は罠に巻き込まれてしまい、それ以降は消息不明。つい先ほどアナウンスで訃報――亡くなったことを知らされた。
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真子は自分のことを責め、苦しんでいるようだった。磯部が何を言っても無駄であったが、それでも村山も声をかけ続けていた。
「あれは仕方がなかったんだ。君は悪くないよ――」
ぽつりと漏らした村山の言葉は、しかし残念ながら真子の耳には届かないようだった。それは仕方がないことかもしれない。少なくとも真子と行動を共にしてきた吉良という男を、磯部と村山は見捨ててしまったのだから。
この街にはいたるところに罠が仕掛けられている。しかし、まさか最初の一発目で遭遇した罠が、あそこまでベタベタで捻りのないものだとは思いもしなかった。まさか、岩が転がってくるなどという、お約束の罠が仕掛けられているなんて、誰が予想できたろうか。
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