BOOBY TRAP 〜僕らが生きる理由〜

鬼霧宗作

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暴走するモラルと同調圧力【午後5時〜午後6時】

暴走するモラルと同調圧力【午後5時〜午後6時】1

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【午後5時25分 前橋智美まえばしともみ 宮垣駐在所】

 壁に貼ってある指名手配犯の写真が、まるで自分のことを睨みつけているように思えた。駐在所――いわゆる交番の隅っこで、彼女は小さく縮こまっていた。

 今時にしては珍しく磨りガラスの入った引き戸が出入り口になっており、内側から鍵をかけることができた。まず、彼女こと前橋智美が、交番の出入り口に施錠をしたことは言うまでもない。

 一通り駐在所の中は見て回った。交番と住居が一体になっていることがすでに確認できているが、どこに罠が仕掛けられているか分からなかった智美は、怖くて住居のほうまで調べていない。いや、駐在所の奥に休憩所らしき二畳ほどの部屋を見つけ、そこで全て事足りると判断したからこそ、リスクを犯してまで住居を調べる必要はないと判断したというべきか。

 丸一日くらいならば、何も口にせずともしのげるだろう。最悪、あまり気は進まないが、配布された携行食糧と水を口にすればいいだろう。寝床は休憩所でまかなえるし、幸いなことに座布団まで積まれている。決して寝心地は良くないだろうが、こうして屋根があり、雨風をしのぐこともでき、しかも鍵をかけることができる場所――すなわち、自分の城を見つけることができたのは幸いだ。スタート地点がここであったことに感謝すべきだろう。

 ――これは智美なりの生きる手段だった。学生時代、ろくに授業も受けていなかったが、テスト前になるとノートを綺麗にまとめる友人からノートを借り、そこそこの点数を取ることができた。社会に出て、ごく普通のOLとなってからも、ちょっと気のある素振りを見せれば贅沢させてくれる男なんて面白いくらいにいたし、基本的に仕事も気の弱い同僚に押し付け、手柄ばかりを自分のものにすることができた。

 他力本願。このような状況に陥ってしまうまで、他人の力を借り、また他人の力をうまいこと利用してきた彼女からすれば、むしろこの状況でさえ他人任せ。利用できるのであれば、赤の他人だって利用する。事実、ルールには他人を利用しろと言わんばかりのものがあった。

 ――根拠となるのは【ルール5】だ。このルールは主に犯人の解答方法について定められたもの。解答するためには特定のボックスを探さねばならないとか、何台かのSGTが必要になるとか、正直なところその辺りのことはどうでも良い。そこで注目すべきは、誰かが正しい解答を導き出せば、プレイヤー全員が解放されるという点。
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