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頑固親父と全く笑えない冗談【午後2時〜午後3時】
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――ピエロの人形だった。可愛らしく作っているだろうに、どこか不気味さを感じるデザイン。懐中電灯の光の輪の中に浮かび上がった様子は、ホラー映画の下手な小道具より怖かった。
「もしかして、これが【トラッペ君】なのか?」
西宮がそれを拾い上げようとした瞬間のことだった。急にそれが生きているかのごとくケタケタと笑い出した。てっきり人形だとばかり思っていた晴美は素直に驚き、そして西宮は思わずピエロの人形を取り落す。
背後から激しい音と振動が響いた時には、もう遅かった。振り返ってみると、ついさっきまで晴美達が歩いてきた道がない。正確に言えば、分厚い鉄の板のようなもので封鎖されていた。シャッターのように鉄の板らしきものが上から降ってきたのか、それとも自動ドアのごとく、勢い良く左右から閉まったのか。なんにせよ、退路を断たれたことだけは間違いないようだった。
「何が起きた?」
西宮が鉄のシャッターらしきものに歩み寄ると、それを叩いてみる。しかし、すぐに顔をしかめ、叩いた手をさすった。光が差し込む神々しい光景とギャップがあって、なんだか滑稽だった。ピエロの人形は相も変わらずケタケタと笑い続けている。まるで壊れたおもちゃのようだ。
「駄目だな。こりゃ、相当分厚い。まぁ、出口はそこに見えているが――」
『点火まで、後5分です。繰り返します。点火まで、後5分です。カウントダウンを開始します』
西宮の声を遮るかのように、機械的な声が辺りに響いた。声質は女性のものであるが、けれども機械的でロボットのような口調だった。ウグイス嬢に子ども達、そしてロボットみたいな機械的な口調。いっそのこと統一して欲しいものである。晴美がそんなことを考えつつ、足元がいつしか水浸しになっていることに気づいた。どこからかは分からないが、水が流れ込んだようだ。それはみるみるうちに水かさを増し、一気に膝下にまで到達する。水が音もなく静かに流れ込み続けているのだ。
息を吸い込んだ時、なんだか空気と違う匂いがして、思わず咳き込んだ。それは、ごくごく身近で嗅いだことのある匂い。最近になってセルフのガソリンスタンドも増えたからこそ馴染みのある匂いだったのかもしれない。
「これ――水じゃないわ!」
そう叫ぶと、西宮がこくりと頷く。そうしている間も水かさは増し、そしてピエロの人形はぷかぷかと浮きながらもケタケタと笑い続ける。
「あぁ、こいつはどうやら……ガソリンみたいだな。どこから流れ込んできてるのか分からんが」
「もしかして、これが【トラッペ君】なのか?」
西宮がそれを拾い上げようとした瞬間のことだった。急にそれが生きているかのごとくケタケタと笑い出した。てっきり人形だとばかり思っていた晴美は素直に驚き、そして西宮は思わずピエロの人形を取り落す。
背後から激しい音と振動が響いた時には、もう遅かった。振り返ってみると、ついさっきまで晴美達が歩いてきた道がない。正確に言えば、分厚い鉄の板のようなもので封鎖されていた。シャッターのように鉄の板らしきものが上から降ってきたのか、それとも自動ドアのごとく、勢い良く左右から閉まったのか。なんにせよ、退路を断たれたことだけは間違いないようだった。
「何が起きた?」
西宮が鉄のシャッターらしきものに歩み寄ると、それを叩いてみる。しかし、すぐに顔をしかめ、叩いた手をさすった。光が差し込む神々しい光景とギャップがあって、なんだか滑稽だった。ピエロの人形は相も変わらずケタケタと笑い続けている。まるで壊れたおもちゃのようだ。
「駄目だな。こりゃ、相当分厚い。まぁ、出口はそこに見えているが――」
『点火まで、後5分です。繰り返します。点火まで、後5分です。カウントダウンを開始します』
西宮の声を遮るかのように、機械的な声が辺りに響いた。声質は女性のものであるが、けれども機械的でロボットのような口調だった。ウグイス嬢に子ども達、そしてロボットみたいな機械的な口調。いっそのこと統一して欲しいものである。晴美がそんなことを考えつつ、足元がいつしか水浸しになっていることに気づいた。どこからかは分からないが、水が流れ込んだようだ。それはみるみるうちに水かさを増し、一気に膝下にまで到達する。水が音もなく静かに流れ込み続けているのだ。
息を吸い込んだ時、なんだか空気と違う匂いがして、思わず咳き込んだ。それは、ごくごく身近で嗅いだことのある匂い。最近になってセルフのガソリンスタンドも増えたからこそ馴染みのある匂いだったのかもしれない。
「これ――水じゃないわ!」
そう叫ぶと、西宮がこくりと頷く。そうしている間も水かさは増し、そしてピエロの人形はぷかぷかと浮きながらもケタケタと笑い続ける。
「あぁ、こいつはどうやら……ガソリンみたいだな。どこから流れ込んできてるのか分からんが」
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