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宮垣という名の街【開始〜午後1時】

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 現状において無闇に歩き回るのは危険。罠を見落として死んでしまうリスクを高めるだけだ。それだけ未知数のリスクを背負うくらいならば、目に見えているリスクをいかに回避するかを考えたほうが、よっぽども容易い。

 罠を解除しようなんて気はないし、そんな技術もスキルもないだろう。でも、せめて罠が発動する条件は知っておきたかった。春日は脱いだ上着を玄関先のほうへと向かって振ってみた。

 ――反応なし。玄関先の【トラッペ君】にさえ馬鹿にされているような気分だ。少なくともセンサーか何かで感知しているわけではないらしい。それは、何度かスーツの上着で宙をなでて確認することができた。

 気を取り直し、ショルダーバッグを手に取った。――今度は投げ込んで観測してみよう。そう、投げ込んで観測する。その次はどうするかなんて考えていない。研究なんてものはトライアンドエラーの繰り返しだ。まずは施行を繰り返し、実験の結果が出たら、それを元に仮説を立てる。そしてまた、仮説を確かめるために研究をする。では、それのきっかけはなにかといえば、とりあえずやってみる――みたいな精神がほとんどだ。なんせ研究者なんて、ほとんどが好奇心で構成されているようなものだから

 試してみて駄目なら次の手段を考える。場合によっては公民館を諦めるのも手段のひとつになるのかもしれない。とにかく、今は思いついたことを実行に移し、情報を集めたい。もちろん、なんでもかんでも実行に移すのではなく、リスクはしっかりと考慮する。

 春日はショルダーバッグの中身を抜いた。物資としての食酢がどうにも邪魔である。携行食糧と水入りのペットボトルは運営からの施しであるから口にするつもりはない。とどのつまり、ショルダーバッグの中身は春日にとって不要なものばかりだった。だからこそ、ショルダーバッグを実験の道具にしようと発想したのかもしれない。

 一見して何も仕掛けられていないように見える玄関先。けれども、その象徴である【トラッペ君】は、確かにそこにいるのだ。春日は小さく溜め息を落とすと、ショルダーバッグを玄関先へと放り投げた。そして、投げたものが一張羅のスーツではなくショルダーバッグで良かったと実感した。

 ショルダーバッグは放物線を描きながら玄関先へと落下した。その落下先の地面から、何かが噴霧ふんむされたように見えた。細かい粒子がショルダーバッグを包み込み、そしてごくごく小さな雷光が走ったかと思ったら、噴霧されたものがショルダーバッグごと激しく燃え上がった。
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