BOOBY TRAP 〜僕らが生きる理由〜

鬼霧宗作

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宮垣という名の街【開始〜午後1時】

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【午後12時5分 春日士郎かすがしろう 公民館前通り】

 貧乏くじの引きだけは、これまでの経験から考えても、ごく一般的な人に比べてかなり強いことになってしまうのであろう。

 せっかく、学会に赴くために一張羅いっちょうらのスーツを新調したばかりだというのに、たどり着いたのは研究者達が小難しい顔を並べる学会ではなく、一見して穏やかでのどかな田舎の道路ばた。何度思い返しても、家を出るところまでの記憶しかなかった。

 記憶の欠如にくわえて、何者かが用意したゲームに参加させられる始末。これほどまでの貧乏くじは初めて引くのではないだろうか。

 春日はある建物の前で悩んでいた。スタート地点からまだ一歩も動いていない状況であるが、何をするにしろ拠点というものが必要である。彼の目の前にある塀に囲まれた建造物は、正しく拠点にするに相応しかった。二階建てであり、玄関先には【宮垣公民館】との看板が出されている。地域の寄り合いの時などに使用される建物だ。もっとも、春日は若くして地元を出てしまったがゆえに、そのような近所付き合いもしたことがないのだが。

 公民館の玄関はガラス張りで、奥の棚の上には今時珍しい肌色の公衆電話が見える。中に入ることができれば、雨風をしのぐことくらいできるだろう。空模様もよろしくないことだし、屋根のある場所は確保しておきたい。けれども、春日はその一歩が踏み出せずにいた。それは、玄関の取っ手に括り付けられたピエロ人形のせいだった。

 確か名を【トラッペ君】といい、罠が仕掛けられているエリアにこそ、彼は姿を現わすという。すなわち、この近くに何かしらの罠が仕掛けられていることになる。

 ――学会の問題児。お偉い歳上の研究者の方々は、恐らく嫉妬がほとんどなのであろうが、春日のことをそう呼んでいたし、そのように呼ばれていることは春日も知っていた。さてさて、その問題児とやらは、現状をどう解決するか。春日は自分に言い聞かせる。考えろ、考えろ――と。妬まれるほどの発想力を持つ自分ならば、現状を打破する発想もできるはずだ。

 改めて状況を把握するために、公民館の軒先にある半球体を睨みつける。この半球体は説明するまでもなく監視カメラだ。恐らく街のいたるところに監視カメラが仕掛けられ、どこの誰なのかも知らない何者かが見ているのであろう。どこまで人をコケにすれば気が済むのか。春日は一張羅のスーツのポケットからSGTを取り出した。
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