ロンダリングプリンセス―事故物件住みます令嬢―

鬼霧宗作

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ケース5 誕生秘話は惨劇へ【解決編】

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 母もまた、心の奥底に闇を抱えながら生きてきたのだ。特に、コトリの振りをしているあかりと接する時、どんな思いだったのか。きっと辛かったに違いない。分かりきったことだが、父のせいで家はめちゃくちゃだったわけだ。

「刑事さん。奥様の場合は、何かしらの罪に問われてしまうのでしょうか?」

 すっかりと大人しくなってしまった寺山は、恐る恐るといった具合に斑目へと問う。

「……話を聞いた限りでは、もしかすると殺人幇助罪にあたるかもしれません。しかし、かなり昔の事件ですし、まだ時効が成立する時代ではないかと思っています。私がこんなことを言うのも妙な話ですが、無理にひっくり返す必要はないと思います」

 刑事という立場でなければならない斑目であるが、しかしそこには温情という精神が含まれているのだろう。遠回しに罪には問われないと言っているようなものだ。

「そうですか……それを聞いて安心しました」

 寺山はそう答えると、今度はコトリのところへやってきた。いや、あかりか――自分でも分からなくなりそうになる。

「お嬢様。これまでありがとうございました。そして、あなた様のお父様の命を奪ってしまったこと、誠に申し訳ありませんでした」

 コトリの前にひざまづき、深々と頭を下げた寺山。全ての元凶は人を人と思わず、家族を家族として扱わなかった父だ。権力と金を振り回し、世の中を捻じ曲げてしまった父である。

「ごめんなさい。今は混乱していて、どう言っていいのか分からないの。ただ、あなたが自らの正義に従ったこと、己の復讐と言いながらも、その犯行自体は誰かのために行ったこと。それだけは分かりますわ」

 これで、いいや別に良かったのだ――とか、犯罪を肯定するようなことは言えなかった。寺山は小さく「ありがとうございます」と漏らすと、斑目のほうへと視線をやる。

「刑事さん。詳しい話は警察署のほうでさせていただきたいと思います。お願いします」

 そう言って両手を差し出す寺山。斑目は小さく頷くが、しかしその差し出された両手に手錠をかけることはしなかった。

「あー、生憎ですが、手錠を忘れてきました。刑事として失格ですねぇ。まぁ、こうして罪を認めてくれたわけですし、逃走を図ることもないでしょう。出頭という形で、警察署に自首をしてください」
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