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ケース5 誕生秘話は惨劇へ【解決編】

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 鯖洲の言葉に、ほんの少しだけ救われた気がした。こんな時、鯖洲の根拠のない自信のようなものがありがたい。

「大体よ、どいつもこいつも昔にこだわり過ぎてんだよ。過ぎたことはどうにもならねぇし、修正できるもんじゃねぇ。ほら、例えばよ、芸能人とか過去の悪行を引っ張り出されて叩かれることがあるだろ? それまでは、そいつのことをなんとも思っていなかった奴も、こぞってそいつを叩きやがる。それを面白がって、次々と過去の悪行を掘り起こす。今のそいつは何も悪いことをしていないのに、過去を引っ張り出されては、やいのやいのと文句を言われるんだ」

 鯖洲にしては珍しく熱が入っているように思える。まるで、過去のゴシップに親でも殺されてしまったかのようだ。その熱弁はなおも続く。

「人間、誰だって過ちを犯す。問題なのは、そこでどう自分と向き合えるかだ。向き合いもせず放っておけば、そいつは今でも同じ過ちを繰り返す。でも、自分と向き合って反省できたやつは、それを今には引きずらない。そうして立ち直った奴の過去をほじくり出して、集団で叩く今の日本はよ、正直かなり幼稚だと思うぜ」

 確かに、今の世の中はそんなゴシップばかりだなと思う。もちろん、そのままにしていて良い問題ばかりではないだろう。時として、徹底的に追求しなければならない問題もある。ただ、必要以上に過去を引っ張り出してきて、過剰に反応するべきではない。だが、残念なことにそれをコトリが認めてはいけないだろう。認める権利などないはずだ。

「でも――」

 コトリが口を開こうとすると、鯖洲は小さく舌打ちをして、コーヒーを啜った。さすがに熱かったようで、すぐにカップから口を離したが。

「俺が気にしねぇって言ってるんだからいいんだよ。それに真っ向から向き合うかどうかはお嬢の自由だがよ、俺には関係ねぇんだよ。だから、気にするな」

 相変わらずぶっきらぼうな言い草ではあるが、コトリは知っていた。その言葉の裏には鯖洲の優しさがあるということを。

「で、これからどうするよ? もうじき玄界灘もここに来るらしいから、どう動くか決めておいたほうがいいぜ」

 そう言う鯖洲の視線は、刑事である斑目に向けられていた。斑目は千早に助け舟を求めるかのように視線をやったが、緩く首を横に振ってから口を開いた。

「窓辺野さんのお母様に会いましょう。紆余曲折ありましたが、結局のところ行き着く先はそこらしいみたいですから」
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