ロンダリングプリンセス―事故物件住みます令嬢―

鬼霧宗作

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ケース5 誕生秘話は惨劇へ【解決編】

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「そうか。分かった。伝えておく。お前もこっちに来るか? 病院側の喫茶店だ。あぁ、じゃあ後で」

 冥からの電話は実に簡潔になものだったらしく、ものの数分で電話を終えてしまう鯖洲。スマホをしまいながら、こちらに向かって口を開く。

「一里之に確認したが、その男とは別の部屋になったみたいだな。今となっては確認の取りようがないみてぇだが、あいつの話だと、思い返せば随分と胡散臭かったらしいぜ」

 留置所に入れられてしまった一里之からすれば、きっと庭師の男の話は掴んだ藁だったのであろう。その時は話を鵜呑みにしてしまったが、冥に言われて違和感に気づいたといった具合か。

「とにかく、鵜呑みにすることだけはやめたほうがいい。まるで無視をしろってわけじゃねぇが、お嬢の命が狙われるってのは、さすがに盛りすぎだったな。大体、そんなことをしてメリットがある奴なんていねぇだろうよ」

 鯖洲の言葉で、これまでの推測の一部が一蹴されてしまった。一応、そうなってしまうと困ってしまう人物が、コトリを亡き者にしようとしているという話ではあったが、その辺りの可能性も考え直さないといけないようだ。

「ねぇ、セバスチャン。私、ひとつだけ思い出したの。これは、私が覚えていることだから、デマでも大袈裟でもないと言い切れる」

 ただ、コトリには伝えるべきことがあった。それは、無理をしてまで鯖洲に伝えることではないのかもしれない。しかし、それを伝えずにいることは、鯖洲や冥に嘘をついているような気がして嫌だった。

「実はね――」

 どこまで話すべきなのか、コトリは迷ってしまった。いいや、どこまでなら受け入れてもらえるのか。自然とその尺度を測っていたのかもしれない。結局、全て話すことにした。軽蔑されてもいい。もしかすると自分のそばから鯖洲が去ってしまうかもしれない。それだけのことをやってしまった自覚はある。鯖洲とて人を殺しておいて、その人に成り代わっていた人間とは距離を置きたいだろう。どんな言葉が返ってきても、受け止める覚悟だけはできていた。

「……で? それがどうした?」

 その覚悟は、鯖洲の一言でぶち壊された。まさかのリアクションに言葉が出てこない。

「あのな、俺はお嬢が誰かなんて、正直どうでもいいんだよ。過去に何があろうが、前科があろうが、大事なのは今だろうが。そんなこと言ったら、俺がこれまでやってきたえげつないことを並べ立ててやろうか?」
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