ロンダリングプリンセス―事故物件住みます令嬢―

鬼霧宗作

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ケース5 誕生秘話は惨劇へ【解決編】

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「ここで手打ちにするって?」

 その言葉の意味は、誰よりもコトリが理解していた。

「言葉の通り、ここで過去の事件を追うことをやめましょう。そうすれば、あなたが命を狙われることはなくなるし、また窓辺野コトリとして生きていくことができます」

 それは、父を殺した犯人を見逃せということか。過去に起きた事件から目を背け、また窓辺野コトリという器に隠れて生きろということか。

「キャンプ場で起きた事件についても警察にお任せしましょう」

 そんなことをしたら、一里之が罪を背負うことになってしまうのではないか。何のためにこれまで、この事件を追ってきたというのだろうか。一里之の無実の罪を証明するためではなかったのか。ここで手打ちになんてしてまったら、それこそこれまでの苦労が無駄になる。

「でも、そんなことをしてしまったら――」

 一里之が犠牲になってしまうではないか。その一言を口にすること自体が恐ろしくて、コトリは口籠もってしまった。

「一里之君のことに関しては、私がなんとかします。現時点で彼以外の人間にも犯行が可能だったことは立証できます。まぁ、色々としがらみがありますけど、彼に冤罪を着せたままというのは、いち刑事として、そして友人として許せませんから」

 先ほどから頭が痛かった。体の中から悪いものを排出する際の痛みであるかのごとく。その痛みが徐々に和らいでいくような気がした。本来ならば排出されるべき悪いものが、また体内に戻っていくような感覚がした。

「このままでは、あなたに命が危ない。これ以上、深入りする前に手を引きましょう。私達としても、ここまで引っ掻き回すつもりはありませんでしたし」

 手打ちにしよう。千早の言葉は暗にコトリにそう促していたように思えた。手打ちにしてしまえば、またいつもの自分に戻れる。窓辺野コトリにさえ戻ってしまえば、命を狙われることもなくなる。もはや、史実がそうであるように、この世に窓辺野あかりが存在することはできないのだ。

 受け入れよう。2人の提案を受け入れてしまおう。そう考えるだけで、随分と気分が楽になった。また、悠々自適に、事故物件を探しては、未解決の事件を解決した気になりながら日々を送ればいい。それがどんな選択よりも、最善である。

「そうですわね。ちょっと危険なところに首を突っ込みすぎましたわ」

 言葉遣いも元に戻りつつある。このまま元通りになったほうが絶対に楽だ。
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