上 下
355 / 391
ケース5 誕生秘話は惨劇へ【解決編】

72

しおりを挟む
「あえて、客観的に状況を理解していただくため、ここからのお話は固有名詞を使わせていただきます。当時、窓辺野あかりは何かしらの理由で突発的に妹を殺害してしまった。それを、彼女のご両親が発見してしまったのです」

 これは、フィクションだ。きっと、留置所の男が作り出した話に違いない。そう思おうとすればするほど、記憶の断片が蘇る。思わず階段上から突き落としてしまった両手、動かなくなった妹、目を見開いて動きを止めた両親。なぜ、そんな光景が勝手に頭の中に浮かんでくるのだろうか。全ては作り話のはずなのに。

「本来ならば、すぐに警察に連絡すべきだったのでしょう。しかし、窓辺野家の方々は違った。事件そのものを隠蔽しようと考えたのです」

 それはすなわち、何を意味するのか。つまり、過去の事件は単独で引き起こされたものではないということ。そこには、思っている以上多くの人間が関与している。

「主導権を握っていたのは、おそらく窓辺野家の当主。あかりの父親でしょう。一里之君が聞いた話では、事件が起きたその日のうちに、屋敷に従事している人間全員に箝口令が出されたそうです。その日、屋敷で起きたこと、そして今後起きることは口外してはならない――と。まぁ、留置所の男はすでに窓辺野家の人間ではないため、一里之君に話してくれたようですが」

 こんな時、鯖洲や冥が一緒にいたら、果たしてどんな反応を見せていたのだろうか。曲がりなりにも、一緒に事故物件に関わって長い2人だからこそ、どんな顔をするのか見てみたい気がする。これらが真実であったとしても、ある意味で部外者同然の千早と斑目から告げられるというのは、まだ救いがあるのかもしれない。特に刑事である斑目からの追求は、実に業務的でありがたい。

「さて、屋敷内の人間を全て味方にしたところで、人が1人死んでしまっているのは事実です。それを誰にもばれないように処分するというのは難しい。そこで計画されたのが、窓辺野あかりの誘拐――いいえ、窓辺野コトリの誘拐事件だったんです」

 もう聞きたくない。耳を塞ぎたくなるが、しかしまるで身に覚えがないといったら嘘になる。これまで記憶の奥底に閉じ込めていたものが少しずつ溢れ出てくる。それに対して、必死になって抵抗する。

「でも、実際に殺害されたのは、お姉様――窓辺野あかりだったのでしょう? それは当時の新聞などにも載ったはず。だったら、いくらなんでも私が窓辺野あかりということはないと思うけど」
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

黄昏は悲しき堕天使達のシュプール

Mr.M
青春
『ほろ苦い青春と淡い初恋の思い出は・・  黄昏色に染まる校庭で沈みゆく太陽と共に  儚くも露と消えていく』 ある朝、 目を覚ますとそこは二十年前の世界だった。 小学校六年生に戻った俺を取り巻く 懐かしい顔ぶれ。 優しい先生。 いじめっ子のグループ。 クラスで一番美しい少女。 そして。 密かに想い続けていた初恋の少女。 この世界は嘘と欺瞞に満ちている。 愛を語るには幼過ぎる少女達と 愛を語るには汚れ過ぎた大人。 少女は天使の様な微笑みで嘘を吐き、 大人は平然と他人を騙す。 ある時、 俺は隣のクラスの一人の少女の名前を思い出した。 そしてそれは大きな謎と後悔を俺に残した。 夕日に少女の涙が落ちる時、 俺は彼女達の笑顔と 失われた真実を 取り戻すことができるのだろうか。

リモート刑事 笹本翔

雨垂 一滴
ミステリー
 『リモート刑事 笹本翔』は、過去のトラウマと戦う一人の刑事が、リモート捜査で事件を解決していく、刑事ドラマです。  主人公の笹本翔は、かつて警察組織の中でトップクラスの捜査官でしたが、ある事件で仲間を失い、自身も重傷を負ったことで、外出恐怖症(アゴラフォビア)に陥り、現場に出ることができなくなってしまいます。  それでも、彼の卓越した分析力と冷静な判断力は衰えず、リモートで捜査指示を出しながら、次々と難事件を解決していきます。  物語の鍵を握るのは、翔の若き相棒・竹内優斗。熱血漢で行動力に満ちた優斗と、過去の傷を抱えながらも冷静に捜査を指揮する翔。二人の対照的なキャラクターが織りなすバディストーリーです。  翔は果たして過去のトラウマを克服し、再び現場に立つことができるのか?  翔と優斗が数々の難事件に挑戦します!

ARIA(アリア)

残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

マスクドアセッサー

碧 春海
ミステリー
主人公朝比奈優作が裁判員に選ばれて1つの事件に出会う事から始まるミステリー小説 朝比奈優作シリーズ第5弾。

どんでん返し

あいうら
ミステリー
「1話完結」~最後の1行で衝撃が走る短編集~ ようやく子どもに恵まれた主人公は、家族でキャンプに来ていた。そこで偶然遭遇したのは、彼が閑職に追いやったかつての部下だった。なぜかファミリー用のテントに1人で宿泊する部下に違和感を覚えるが… (「薪」より)

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...