ロンダリングプリンセス―事故物件住みます令嬢―

ケース５ 誕生秘話は惨劇へ【解決編】

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「やっぱり思い過ごしだったな。まぁ、お嬢のことを狙う奴がいるなら、もう遠の昔に仕掛けてきてたはずなんだ。用心するに越したことはねぇが」

　駐車場に車を入れつつ、鯖洲が安堵の溜め息らしきものを漏らした。その辺りのことは全く聞けていないが、間違いなく物騒なワードが混じっていた。

「最後にひとつだけ。なぜゆえに、ここまで厳重に警戒をしなければならなかったのですか？」

　どうやら冥もコトリと同じような疑問にたどり着いたらしい。そうなのだ。これまでの話と、ここに来るまでの間に警戒しなければならない理由には、まるで相関性がない。それなのに、鯖洲は一体何を恐れたのであろうか。何を警戒したのか。

「触れちゃいけねぇもんに触れたからだよ。過去に起きたあの事件、どうやら真相が発覚すると困る奴がいるらしい。一里之が無実の罪を着せられたように、俺達にも……いや、お嬢様にも危害が加えられる恐れがあったみたいなんだよ。だからこそ、ここまで用心したわけだ」

　先に車を鯖洲が降りる。現地に到着したとて油断はしないようだ。辺りを確認した鯖洲が、降りてこいとばかりに手招きをしたのを見てから、冥と一緒に車を降りる。

　夕食時には少しばかり早いような気もするが、すでに駐車場は半分ほど埋まってしまっている。もし仮に何者かに狙われていても、人が多ければ手出しはできないはず。待ち合わせ場所としてはベターな選択であろう。

「なんだか変に疲れたな。酒の一杯でも引っかけてやるか」

　気が抜けてしまったのであろう。前を歩く鯖洲が振り返って笑みを浮かべた。

「この状況でアルコールを飲んでも、なんらプラスになることはないと思いますが」

　冥がいつものようにあしらうと「現役の刑事が一緒にいるんだからいいじゃねぇか」と鯖洲。その表情が急に凍りつくと、ほぼ無表情のままコトリのほうへと足早にやってくる。そして、鯖洲から思いきり突き飛ばされてしまった。たまたま、突き飛ばされた先に冥がいてくれたから大事にはいたらなかったが、かなり強い力で突き飛ばされたと思う。

「お前……どこの差し金だ？　今時、鉄砲玉は流行らねぇなぁ」

　コトリの背後には小柄な男が歩み寄っていたらしい。そして、鯖洲はその男が手にするナイフの刃を掴んでいた。もちろん、刃を握り込む鯖洲の手からは血が滴る。男は慌てたかのようにナイフから手を離し、何度か振り返りつつ逃走した。