339 / 391
ケース5 誕生秘話は惨劇へ【解決編】
56
しおりを挟む
姉が誘拐されたと思われるのは学校帰りだった。それなのに、周囲から得られた目撃証言によると、姉はコトリのような格好をしていたらしい。すなわち、姉はわざわざ着替えて現場周辺をうろついていたことになる。コトリはそれを、わざと目撃証言を作ろうとしていたと考えた。
「もし狂言誘拐を成功させるのであれば、しばらくホテル暮らしをしていた事実や、あの辺りで自由に行動していたことを目撃されるのは不利にしかならない。それを、わざとやっていたとして、何が目的だったのでしょうか?」
誰もがそこで詰まってしまうだろう。事実、コトリだって明確な答えが見えているわけではない。ただ、憶測だけならばあった。それはきっと、じつの妹だからこそ分かることかもしれない。
「確証があるわけではないけど、後になって狂言誘拐だったと分かるようにするために、わざと周辺に痕跡を残したのではないかしら?」
姉が仕組んだと思われる狂言誘拐は、最終的に狂言誘拐だったと判明するようになっていたのではないか。
「その割にしちゃ、現場付近じゃ徹底的に痕跡を隠そうとしていたよな」
鯖洲はそう言うと欠伸をひとつ。冥が小さく溜め息を漏らしてから口を開く。
「あまりに露骨すぎるのは避けたかったのでは?」
冥の言葉に「なんだかわけが分からなくなってきたなぁ」と呟き、とうとう横になる鯖洲。
「これも推測でしかないけれど、もしかするとお姉様は心配をかけたかっただけなのかもしれませんわ」
これこそ、コトリにしか分からない事実。小さい頃から一緒に暮らしてきた人間だからこそ考えられることかもしれなかった。
誘拐事件が起きた当時、姉は俗いう反抗期というものだった。コトリ自身、反抗期はほとんどなかったと思うのだが、姉は特に酷かったと思う。それこそ、両親とは口を利かなかったし、むしろ両親とうまくやっていたコトリとさえも、必要最低限の会話しかしなかった。
「あの頃のお姉様は、家族の中で孤立していたように思いますわ。お父様やお母様も、どのように接したら良いのか分からなかったのでしょう。腫れ物に触るような扱いだった覚えさえあるから」
もしこれが事実ならば、やりきれない。しかしながら、狂言誘拐をする動機としては充分にあり得た。
「思春期ってやつだな。親離れの加減が分からねぇから強く当たるが、でもそのまま親が離れていくことは寂しい。どうしろってんだ――って時期は誰にでもあることだからな」
「もし狂言誘拐を成功させるのであれば、しばらくホテル暮らしをしていた事実や、あの辺りで自由に行動していたことを目撃されるのは不利にしかならない。それを、わざとやっていたとして、何が目的だったのでしょうか?」
誰もがそこで詰まってしまうだろう。事実、コトリだって明確な答えが見えているわけではない。ただ、憶測だけならばあった。それはきっと、じつの妹だからこそ分かることかもしれない。
「確証があるわけではないけど、後になって狂言誘拐だったと分かるようにするために、わざと周辺に痕跡を残したのではないかしら?」
姉が仕組んだと思われる狂言誘拐は、最終的に狂言誘拐だったと判明するようになっていたのではないか。
「その割にしちゃ、現場付近じゃ徹底的に痕跡を隠そうとしていたよな」
鯖洲はそう言うと欠伸をひとつ。冥が小さく溜め息を漏らしてから口を開く。
「あまりに露骨すぎるのは避けたかったのでは?」
冥の言葉に「なんだかわけが分からなくなってきたなぁ」と呟き、とうとう横になる鯖洲。
「これも推測でしかないけれど、もしかするとお姉様は心配をかけたかっただけなのかもしれませんわ」
これこそ、コトリにしか分からない事実。小さい頃から一緒に暮らしてきた人間だからこそ考えられることかもしれなかった。
誘拐事件が起きた当時、姉は俗いう反抗期というものだった。コトリ自身、反抗期はほとんどなかったと思うのだが、姉は特に酷かったと思う。それこそ、両親とは口を利かなかったし、むしろ両親とうまくやっていたコトリとさえも、必要最低限の会話しかしなかった。
「あの頃のお姉様は、家族の中で孤立していたように思いますわ。お父様やお母様も、どのように接したら良いのか分からなかったのでしょう。腫れ物に触るような扱いだった覚えさえあるから」
もしこれが事実ならば、やりきれない。しかしながら、狂言誘拐をする動機としては充分にあり得た。
「思春期ってやつだな。親離れの加減が分からねぇから強く当たるが、でもそのまま親が離れていくことは寂しい。どうしろってんだ――って時期は誰にでもあることだからな」
0
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説
黄昏は悲しき堕天使達のシュプール
Mr.M
青春
『ほろ苦い青春と淡い初恋の思い出は・・
黄昏色に染まる校庭で沈みゆく太陽と共に
儚くも露と消えていく』
ある朝、
目を覚ますとそこは二十年前の世界だった。
小学校六年生に戻った俺を取り巻く
懐かしい顔ぶれ。
優しい先生。
いじめっ子のグループ。
クラスで一番美しい少女。
そして。
密かに想い続けていた初恋の少女。
この世界は嘘と欺瞞に満ちている。
愛を語るには幼過ぎる少女達と
愛を語るには汚れ過ぎた大人。
少女は天使の様な微笑みで嘘を吐き、
大人は平然と他人を騙す。
ある時、
俺は隣のクラスの一人の少女の名前を思い出した。
そしてそれは大きな謎と後悔を俺に残した。
夕日に少女の涙が落ちる時、
俺は彼女達の笑顔と
失われた真実を
取り戻すことができるのだろうか。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
リモート刑事 笹本翔
雨垂 一滴
ミステリー
『リモート刑事 笹本翔』は、過去のトラウマと戦う一人の刑事が、リモート捜査で事件を解決していく、刑事ドラマです。
主人公の笹本翔は、かつて警察組織の中でトップクラスの捜査官でしたが、ある事件で仲間を失い、自身も重傷を負ったことで、外出恐怖症(アゴラフォビア)に陥り、現場に出ることができなくなってしまいます。
それでも、彼の卓越した分析力と冷静な判断力は衰えず、リモートで捜査指示を出しながら、次々と難事件を解決していきます。
物語の鍵を握るのは、翔の若き相棒・竹内優斗。熱血漢で行動力に満ちた優斗と、過去の傷を抱えながらも冷静に捜査を指揮する翔。二人の対照的なキャラクターが織りなすバディストーリーです。
翔は果たして過去のトラウマを克服し、再び現場に立つことができるのか?
翔と優斗が数々の難事件に挑戦します!
ARIA(アリア)
残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……
どんでん返し
あいうら
ミステリー
「1話完結」~最後の1行で衝撃が走る短編集~
ようやく子どもに恵まれた主人公は、家族でキャンプに来ていた。そこで偶然遭遇したのは、彼が閑職に追いやったかつての部下だった。なぜかファミリー用のテントに1人で宿泊する部下に違和感を覚えるが…
(「薪」より)
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
嘘つきカウンセラーの饒舌推理
真木ハヌイ
ミステリー
身近な心の問題をテーマにした連作短編。六章構成。狡猾で奇妙なカウンセラーの男が、カウンセリングを通じて相談者たちの心の悩みの正体を解き明かしていく。ただ、それで必ずしも相談者が満足する結果になるとは限らないようで……?(カクヨムにも掲載しています)
失くした記憶
うた
ミステリー
ある事故がきっかけで記憶を失くしたトウゴ。記憶を取り戻そうと頑張ってはいるがかれこれ10年経った。
そんなある日1人の幼なじみと再会し、次第に記憶を取り戻していく。
思い出した記憶に隠された秘密を暴いていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる