ロンダリングプリンセス―事故物件住みます令嬢―

ケース５ 誕生秘話は惨劇へ【解決編】

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　女性はあまり人の前で牛丼をお上品には食さないだろう。むろん、デートコースに牛丼屋が組み込まれることも稀だし、それゆえに女性と一緒に牛丼目的で店に入るというのは妙な気分だ。しかも、一方は長身のメイドで、もう一方は小柄ながらも、いかにもお姫様といった出立ち。さらに、双方共に顔立ちが整っているとなれば、なおさらに妙な気分だ。彼女達が牛丼をかきこむ姿は想像できない。

「私、ネットで調べましたの。噂によると、裏メニューでとんでもなく大盛りにできるらしいじゃない。一度でいいから、この目で見てみたいですわ」

　お嬢様ゆえの好奇心といったところか。鯖洲が「食い切れるといいけどな」と、手元に置いてあるコンソールに手を伸ばす。タッチパネル式で注文できる仕組みだ。いつも世話になっているから、斑目は知っている。

「随分と久ぶりに来てみましたが、店員の方が注文を取りに来るシステムではなくなったのですね」

　コトリほどではないが、冥も珍しそうにコンソールを眺めていた。

「世の中、時代の流れに合わせて便利になっていってるんだよ。うかうかしてると、置いていかれるぞ」

　おそらく、牛丼屋というジャンルにおいては流行の先頭を走っているであろう鯖洲。コトリと自分の分を頼んだのか、コンソールを冥に手渡す。

「後はお前ら２人だけだな。ほら、こういうところは速さが売りだからよ、さっさと頼めよ」

　昨今の牛丼屋において、メニューは牛丼だけではない。さまざまなトッピングに加え、カレーやら他の丼ものも取り揃えてあったりする。ほぼ常連と言っても過言ではない斑目は、メニューを見ずとも即決で注文することができるが、しかし慣れていない冥はそうもいかないであろう。

「餅は餅屋と申します。ならば、ここは牛丼を頼んでおけば、まず間違いありません。ただ、いかんせん丼ものとなると、食べる際に弊害が生じる。ゆえに、おそらく似たようなものを別皿で出す、牛皿定食辺りが間違いないかと」

　一瞬で分析を終えた冥は、実に無難でありながら、上品に食べられるような形式の定食を頼む。彼女の後で申し訳ないが、ここは牛丼のつゆだくを決めさせていただこう。

　――こうして、コトリがとんでもない盛りの牛丼に驚き、半分以上を残したところで鯖洲にパスをするという、もはや予測できた事態を迎えつつ、一同は昼食を終える。そろそろ彼女が到着する時間だ。