ロンダリングプリンセス―事故物件住みます令嬢―

鬼霧宗作

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ケース5 誕生秘話は惨劇へ【出題編】

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 朝食を終え、冥がテーブルの上を片付ける。鯖洲が煙草を吸いに出るというのでご一緒することにした。今や分煙は当たり前の世の中であり、この屋敷の中でも吸っていい場所と悪い場所が分けられているに違いない。右も左も分からない斑目からすれば、慣れているであろう鯖洲について行くのは当然だった。エントランスに出るなり煙草をくわえ、しかし斑目の目があったからなのか、慌ててポケットに煙草を突っ込んだ鯖洲。よもや、適当な場所で吸おうとしていたのではないか――と勘繰るのはやめておこう。

 エントランスから裏口のほうに抜けると、当然ながらそこは外だ。しかしながら、景観にそぐわぬ透明なブースがあった。煙草を吸う人間は外に追いやられ、ホタル族などと呼ばれた時代があったのだが、こちらのホタル族は随分と豪華な設備が整っているようだ。少なくとも雨風はしのげるし、排煙設備まである。

「それにしても、本当にはるばるとこんなところまで――よく来たもんだな」

 煙草に火を点けるや否や、美味そうに煙を吐き出す鯖洲。同じように、食後の一服をやると、斑目は頷いた。

「まぁ、彼とは随分と付き合いも長いですから。こんな時くらい駆けつけなければね――」

 今回の事件については、誰よりも千早が心配していた。もちろん、斑目は自分の意志でこちらに向かったわけであるが、実のところ千早にお願いされた側面もあった。彼女なりに今回の事件は、何か大きな陰謀があるような気がするらしい。普段、あまり根拠のないことは言わない彼女が、そんなことを言い出したのだ。斑目の刑事としての勘も、珍しくこの時は働いていた。

「なんか良く分からねぇけどよ、あいつが周囲に可愛がられてんのは、なんとなく分かるな。なんだかんだ、あいつが来る前は女ばっかの職場だったからな。俺からしても弟分みたいなもんだ」

 鯖洲も鯖洲で、一里之とはうまくやっているようだ。この、自然と周囲のおじさん達を巻き込んでしまうのは、彼の特殊な才能のひとつなのかもしれない。

「弟分か――」

 斑目が呟いたと同時に、ブースの中に人が入ってきた。いかにも執事――といった格好をしている。もちろん、この場で会う人はほとんどが初対面である。どう声をかけていいものなのかと考えあぐねていると、鯖洲が口を開いた。

「おい、さっさと車を表に回したほうがいいんじゃねぇか? こんなところで煙草を吸ってる暇があったらよ」

 喧嘩腰の言葉であるが、しかし男は無視して煙草に火を点ける。
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