ロンダリングプリンセス―事故物件住みます令嬢―

鬼霧宗作

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ケース5 誕生秘話は惨劇へ【出題編】

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 とりあえず鯖洲の後について歩き出した。広いせいか、随分とひっそりしているような気がする。豪邸に憧れのようなものはあるが、しかしこうも寂しいと、なんだかこぢまんりと生活をしていたほうが落ち着くような気がする。

「おう、こっちだ」

 斑目が通されたのは、これまた無駄に広い食堂だった。どうやって運び込んだのか聞きたくなるような長テーブルに、ずらりと並んだ椅子。こんな立派な食堂は、映画の一場面でしか見たことがない。

「まぁ、適当なところに座れや」

 鯖洲はそう言うと、長テーブルの中ほどにあった椅子を引いて座る。斑目もそれにならって、近くにあった椅子に着席した。長テーブルが元々大きいせいか、鯖洲との距離が遠いような気がする。ほぼほぼ対面に座っているはずなのだが。

 特に鯖洲と会話を交わすこともなく、待つことしばらく。食堂の扉が開くと、メイド姿の女性と、これまた絵本の世界から飛び出してきたような、ドレスをお召しになったお嬢様が姿を現した。

「あなたが斑目さんね? 遠路はるばるとお越しになられて、さぞ大変でしたでしょう」

 斑目の姿を見るや否や、顔を明るくさせ、小走りで斑目のもとまでやってきたお嬢様。スカートの両裾を持つと、そのままご挨拶。

「私、窓辺野コトリと申します。どうぞ、よろしくお願いしますわ」

 その――ごめんなさい。濃い。思っていた以上にお嬢様のキャラクターが濃すぎて、どうリアクションしていいのか分からない。とりあえず軽く会釈をする。

「玄界灘冥と申します。以後、お見知りおきを」

 コトリと並ぶと、かなりの高身長に見えてしまう彼女の名前は、これまた風体とはかけ離れた玄界灘というらしい。彼女がもっともまともに見えるというのは、これまたいかに。

「斑目です。一里之君が普段からお世話になっているようで――」

 斑目がそう返すと、バスケットバッグをテーブルの上に起き、朝食の準備を始める冥。コトリに「ちょっとキッチンをお借りします」と伝えると姿を消す。

「それで、実際のところどうなんだ? 一里之のやつを助けることはできそうなのか?」

 どうやら、自然と話し合いが始まったらしい。コトリも鯖洲の隣へと着席する。

「まだ調べている最中ではありますけど、どうやら状況的な証拠だけで引っ張られてしまったようですね。まぁ、状況が状況ですし、任意で引っ張られる程度なら分かりますが、どうも強引な気がしなくともないです」
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