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ケース5 誕生秘話は惨劇へ【出題編】

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 コトリにとって外食は珍しかった。普段から、一流のシェフが家にいるのだから、会合などがない限り、外食する必要がないのだ。しかも、外食ともなれば、やはり高級レストランばかりだ。鯖洲に連れて行ってもらえる場所はどんなところなのか、少しだけワクワクする。

「是非ともお願いいたしますわ。一体どんなところに――」

「いや、やっぱり出るのはリスクが高ぇか。今はなんたらイーツとかが流行ってるし、出前でも取るか。出前でも」

 鯖洲との外食というのも悪くはないが、出前という言葉にコトリの胸はさらに弾む。これまで長いこと生きてきたが、一般的なお店から、わざわざ家まで料理を運んでくれるという出前は初経験だ。鯖洲の心変わりに感謝しかない。

「なんだか妙に嬉しそうだなぁ。ま、ずっと気を張っていても仕方がねぇからな。なんでもいいか? なんでもいいんだったら、たまには俺が金を出してやる」

 鯖洲は仕事でここにいる。すなわち、これも経費ということになる。しかしながら、鯖洲が金を出すという。天変地異でも起きる前触れなのかもしれない。いいや、もしかすると、これから立ち向かう事件が、それだけ強大なものだということを示唆しているのかもしれない。

「えぇ、メニューはセバスチャンにお任せしますわ」

 スマートフォンを取り出しつつ「だから俺はセバスチャンじゃねぇっての」と鯖洲。本当ならば経費で落として欲しいところだが、あえて鯖洲の申し出に甘えてみる。

「よし、これでしばらくしたら出前が来るからよ。これだけの屋敷だから、どっか飯を食う場所もあるだろ?」

 鯖洲はこの屋敷の中には滅多に入らない。だから、中の構造も理解できていないのであろう。

「大食堂がございますわ。案内しますわね」

「いや、出前が来た時にわざわざここまで戻って来るのが面倒くせぇ。出前が来てからでいい」

 いちいちエントランスを離れてしまうと、出前の対応が面倒になるようだ。どうやら、出前というシステムは、屋敷の指定した部屋まで料理を運ぶサービスはしないらしい。

 鯖洲と待つことしばらく。屋敷のチャイムが鳴り、鯖洲が外に出て対応する。しばらくすると、ビニール袋を持った鯖洲が戻ってきた。

「あれだ。別に牛肉嫌いじゃねぇだろ?」 

 鯖洲の言葉に「私、好き嫌いはありませんの」と答えると、自然と大食堂に案内する流れになった。

 大きな食堂で、鯖洲と2人で席に着き、鯖洲が頼んでくれた料理――牛丼なる食べ物を喫食するコトリ。

 ほんのりも甘い味付けの牛肉。アクセントを加える紅生姜なる香の物。そこに生卵を落とし、自らぐちゃぐちゃにかき混ぜて頂くという遊び心満載の料理に、コトリは大いに舌鼓を打ったのであった。

 こうして、長かった1日が終わりゆく。
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