ロンダリングプリンセス―事故物件住みます令嬢―

鬼霧宗作

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ケース5 誕生秘話は惨劇へ【出題編】

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【4】

 屋敷に帰ってきた時には、すでに辺りは真っ暗になっていた。普段ならば、何人もの家政婦達が働いている時間ではあるが、暇を出してしまっているため、外から見た屋敷全体が静かに見える。

「お母様はどこか食事に出られたようですわね」

 母からのつたないメールを見て溜め息をひとつ。こんな時に家を留守にするなんて不用心だ。大体、いつもならば誰かしらがいる屋敷だから、コトリは家の鍵を持ち歩いてなどいない。その辺りのことは家政婦達に任せっぱなしの母のことだ。下手をすると施錠をせずに外に出たおそれもある。鍵を持っていないコトリからすれば、そちらのほうが好都合であるが――。

 車から降りると、エントランスのほうへと向かう。エントランスの外には明かりがこれでもかとばかりに灯っているが、やはり扉の向こう側に人の気配が全くないというのは違和感があった。

「珍しく、鍵がかかってるなぁ――」

 扉には手を伸ばした鯖洲が呟いた。やはり、鍵はしっかりとかけてあるようだ。

「お母様がそこまで気を回すとは思えないから、きっと寺山でしょう。あの人まで暇を出してしまうと、本当に諸々と家が回らなくなるから、あえて残ってもらったのだけど。本人もそう言ってくれたし」

 寺山ならば、屋敷を出る際に施錠くらいはしそうだ。それならばそれで、コトリが鍵を持っていないことにまで気を回して欲しかったのであるが。

「間違いありません。なぜなら、こうなった時のために、事前に鍵を渡してくれましたから」

 冥はそう言うと、鍵束を荷物の中から取り出す。どうやら、事前に寺山から渡されていたらしい。この辺りの手回しの良さは、さすが寺山だと思う。そもそも、屋敷の家政婦達がほとんど暇を出されるなんてことは、これまで一度もなかったことであり、寺山だって初めてのことだろう。しっかりと家が回るように配慮されているだけでも、充分にありがたい。

 冥が鍵を差し込んで扉を開ける。重厚そうに見えて、実は物凄く軽い扉は、あっさりとコトリ達を出迎えてくれた。家に帰ってきただけなのに、この安心感はなんなのであろうか。

「明日以降のスケジュールについて、お話をさせていただきます」

 今日はもう、そろそろ解散という流れになるのだろう。鯖洲と冥にだって多少は休息を入れてもらわねばならない。今回は事故物件に泊まり込まねばならないわけでもないし、一度帰ってもらっても構わない。面倒なら部屋はいくらでも余っているから、泊まってもらってもいいのだが。
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