265 / 391
ケース5 誕生秘話は惨劇へ【出題編】
42
しおりを挟む
多くの人達が自分を信じてくれている。ここに閉じ込められていると、自分以外の人間全てが敵のようにしか思えなくなるが、実のところそんなことはないのだ。折れかけていた心は、斑目との面会で辛うじて持ち直していた。
警察官に引きつられ、後ろ髪を引かれながらも、いつもの日常へと戻ってしまった一里之。実にあっさりした別れだった。だが、慣れ始めていたはずの日常を客観的に見ることができる程度までには、メンタル的に回復していた。こんな場所に慣れてはいけない。ここにいることが当たり前となり、取り調べを受け続けることをルーティンとしてはならない。そうなってしまえば、飲み込まれるのを待つだけだ。
他の人間は取り調べを受けているのか、珍しく一里之は一人になった。そこで改めて事件のことを思い起こす。
一里之の記憶に残っているのは、事件の前日までだと思う。すなわち、そこから目が覚めるまでの記憶が完全に欠落してしまっていた。まずは、記憶を失う直前までを掘り返してみた。
あの日は特に仕事もなく、ただただ家にいたはずだ。ただ、食材を切らしていたことに気づいて、夜になって家を出た。買い物を終えて、もう少しで家に到着するというところで記憶が途絶えている。頭に走った衝撃は、単純に何かで殴られたものだと思う。
あの時のことを深く思い出してみる。そもそも、一里之が家を出ようと思ったきっかけは、たまたま食材が無くなったからだ。すなわち、それは一里之を襲った人物とて預かり知らぬことだったに違いない。それなのに、買い物帰りを狙われてしまったということは、もしかすると何者かにずっと監視されていたのかもしれない。いや、監視というほど大それたものである必要はない。ただ単純に、車の中での張り込みでも、一里之の動向は掴めることだろう。
問題は一里之を襲った後だ。元より一里之の住んでいる場所は、閑静な住宅街の中なのであるが、いくら夜であったとしても、まるで人通りがないということはない。下手をすれば、第三者に目撃されるおそれだってあるだろう。
「まず、車は必要不可欠か」
一里之はぽつりと漏らす。一里之の動向を探るために張り込みをするのであれば、車の中で待機するのがベターな気がする。それにくわえて、意識を失った一里之を運ぶためにも、最低限車は必要となるだろう。当たり前のことかもしれないが、情報がほとんどない一里之にとっては、このような思考回路も必要だった。限られた情報で出せる答えには限りがある。
警察官に引きつられ、後ろ髪を引かれながらも、いつもの日常へと戻ってしまった一里之。実にあっさりした別れだった。だが、慣れ始めていたはずの日常を客観的に見ることができる程度までには、メンタル的に回復していた。こんな場所に慣れてはいけない。ここにいることが当たり前となり、取り調べを受け続けることをルーティンとしてはならない。そうなってしまえば、飲み込まれるのを待つだけだ。
他の人間は取り調べを受けているのか、珍しく一里之は一人になった。そこで改めて事件のことを思い起こす。
一里之の記憶に残っているのは、事件の前日までだと思う。すなわち、そこから目が覚めるまでの記憶が完全に欠落してしまっていた。まずは、記憶を失う直前までを掘り返してみた。
あの日は特に仕事もなく、ただただ家にいたはずだ。ただ、食材を切らしていたことに気づいて、夜になって家を出た。買い物を終えて、もう少しで家に到着するというところで記憶が途絶えている。頭に走った衝撃は、単純に何かで殴られたものだと思う。
あの時のことを深く思い出してみる。そもそも、一里之が家を出ようと思ったきっかけは、たまたま食材が無くなったからだ。すなわち、それは一里之を襲った人物とて預かり知らぬことだったに違いない。それなのに、買い物帰りを狙われてしまったということは、もしかすると何者かにずっと監視されていたのかもしれない。いや、監視というほど大それたものである必要はない。ただ単純に、車の中での張り込みでも、一里之の動向は掴めることだろう。
問題は一里之を襲った後だ。元より一里之の住んでいる場所は、閑静な住宅街の中なのであるが、いくら夜であったとしても、まるで人通りがないということはない。下手をすれば、第三者に目撃されるおそれだってあるだろう。
「まず、車は必要不可欠か」
一里之はぽつりと漏らす。一里之の動向を探るために張り込みをするのであれば、車の中で待機するのがベターな気がする。それにくわえて、意識を失った一里之を運ぶためにも、最低限車は必要となるだろう。当たり前のことかもしれないが、情報がほとんどない一里之にとっては、このような思考回路も必要だった。限られた情報で出せる答えには限りがある。
0
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説
黄昏は悲しき堕天使達のシュプール
Mr.M
青春
『ほろ苦い青春と淡い初恋の思い出は・・
黄昏色に染まる校庭で沈みゆく太陽と共に
儚くも露と消えていく』
ある朝、
目を覚ますとそこは二十年前の世界だった。
小学校六年生に戻った俺を取り巻く
懐かしい顔ぶれ。
優しい先生。
いじめっ子のグループ。
クラスで一番美しい少女。
そして。
密かに想い続けていた初恋の少女。
この世界は嘘と欺瞞に満ちている。
愛を語るには幼過ぎる少女達と
愛を語るには汚れ過ぎた大人。
少女は天使の様な微笑みで嘘を吐き、
大人は平然と他人を騙す。
ある時、
俺は隣のクラスの一人の少女の名前を思い出した。
そしてそれは大きな謎と後悔を俺に残した。
夕日に少女の涙が落ちる時、
俺は彼女達の笑顔と
失われた真実を
取り戻すことができるのだろうか。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
リモート刑事 笹本翔
雨垂 一滴
ミステリー
『リモート刑事 笹本翔』は、過去のトラウマと戦う一人の刑事が、リモート捜査で事件を解決していく、刑事ドラマです。
主人公の笹本翔は、かつて警察組織の中でトップクラスの捜査官でしたが、ある事件で仲間を失い、自身も重傷を負ったことで、外出恐怖症(アゴラフォビア)に陥り、現場に出ることができなくなってしまいます。
それでも、彼の卓越した分析力と冷静な判断力は衰えず、リモートで捜査指示を出しながら、次々と難事件を解決していきます。
物語の鍵を握るのは、翔の若き相棒・竹内優斗。熱血漢で行動力に満ちた優斗と、過去の傷を抱えながらも冷静に捜査を指揮する翔。二人の対照的なキャラクターが織りなすバディストーリーです。
翔は果たして過去のトラウマを克服し、再び現場に立つことができるのか?
翔と優斗が数々の難事件に挑戦します!
ARIA(アリア)
残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……
大絶滅 2億年後 -原付でエルフの村にやって来た勇者たち-
半道海豚
SF
200万年後の姉妹編です。2億年後への移住は、誰もが思いもよらない結果になってしまいました。推定2億人の移住者は、1年2カ月の間に2億年後へと旅立ちました。移住者2億人は11万6666年という長い期間にばらまかれてしまいます。結果、移住者個々が独自に生き残りを目指さなくてはならなくなります。本稿は、移住最終期に2億年後へと旅だった5人の少年少女の奮闘を描きます。彼らはなんと、2億年後の移動手段に原付を選びます。
どんでん返し
あいうら
ミステリー
「1話完結」~最後の1行で衝撃が走る短編集~
ようやく子どもに恵まれた主人公は、家族でキャンプに来ていた。そこで偶然遭遇したのは、彼が閑職に追いやったかつての部下だった。なぜかファミリー用のテントに1人で宿泊する部下に違和感を覚えるが…
(「薪」より)
蠍の舌─アル・ギーラ─
希彗まゆ
ミステリー
……三十九。三十八、三十七
結珂の通う高校で、人が殺された。
もしかしたら、自分の大事な友だちが関わっているかもしれない。
調べていくうちに、やがて結珂は哀しい真実を知ることになる──。
双子の因縁の物語。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる