ロンダリングプリンセス―事故物件住みます令嬢―

鬼霧宗作

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ケース5 誕生秘話は惨劇へ【出題編】

33

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【3】

 刑事ドラマなどで観る取り調べ。それにはどうやら、多くの現実との違いがあるらしい。

 まずカツ丼というものは出てこない。かつて、刑事ドラマなどでカツ丼が選ばれる理由を、冷めても美味しく食べられるから――なんてうんちくさえあったのだが、そもそも取調室で食事を摂ることを許されるのは、任意での聴取の場合だ。犯人の自供を引き出す手段としてカツ丼が出てくることなんて絶対にないそうだ。まぁ、取り調べが終われば弁当が出てくるのだから、当然といえば当然であるが。

 くわえて、取り調べというものは実に単調なものである。まるで日替わりであるかのごとく聴取すると刑事が入れ替わり、事件のあらましを、毎回最初から話すハメになる。同じ留置所に入れられた強面の人に聞いたのであるが、毎回同じことを説明させることで、そこにほころびがないか確かめるためらしい。本当のことを言っているのであれば、何度同じことを聞かれても同じことを話す。しかし、ある部分に嘘や創作が混じっていると、それを喋っている本人も、どのタイミングでどのような嘘をついたのかを覚えておらず、嘘に嘘を塗り固める形で証言することになる。ゆえに、聴取の度に話す内容が異なり、ほころびがでてくるわけだ。

 今日も今日とて朝から弁当を食べ、やや通い慣れ始めてしまった取調室へと向かう。さすがに聴取に割ける刑事の人数に限りがあるのか、見知った顔の刑事が担当してくれた。

 ほころびなんてない。ほころびなんて出るわけがない。しかしながら、こうして毎日同じようなことばかり喋らなければならないのは、精神的なダメージが大きい。一言一句、間違うことなく証言することは不可能であるし、こちらの話を信じてもらえないと言う被害妄想のようなものも出てくる。人間というものは弱いもので、非日常に放り投げられると、きっと1週間は精神を保つことができなくなるのかもしれない。

 一里之は今日も今日とて同じことを繰り返す。人間というものは娯楽がなくなると、本能的な部分に喜びを見出すようになるというが、本当にそうだと思う。聴取室と留置所の往復の中で、楽しみなのが冷め切った弁当と睡眠だと考えると、かなり追い詰められていたのかもしれない。

 これからもずっとループするのだ。明日も明後日も、それからもずっと。それならば、いっそ認めてしまったほうが良いのではないか。普通に考えれば正常ではない思考ではあるが、本気でそう考え始めていた。
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