ロンダリングプリンセス―事故物件住みます令嬢―

ケース５ 誕生秘話は惨劇へ【出題編】

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　大東という人物から話を聞くのは結構だが、話を聞いたところで密室の謎が解けるわけではない。ここまで来たのだから、調べられるところは調べておきたい。帰りのことも考えると、日が落ちるまでには山を降りたほうが良さそうであるし。

「まぁ、お嬢がそれで構わないなら、俺はそれでいいんだけどよ。誰かを締め上げて事件が解決するなら、それが一番手っ取り早いだろ？」

　鯖洲のような力業が通用してしまうのであれば、探偵の面目は丸潰れだ。例え大東を暴力で脅したとしても、彼はあくまでも不動産の取引をしただけだ。今回の事件に関与しているかも不明だ。リスクが高すぎる。

「セバスチャン、いいこと？　今回の事件は、もしかすると私達の身近な人間が関与しているかもしれないの。だから、目立った行動は極力避けたいですわ」

　鯖洲とて本気で言っているわけではないのだろうが、念のために釘を刺しておく。今回の事件に関しては、コトリ達に近い人物が関与している可能性が高い。だから、こちらの動きが外部に漏れるのは最小限に留めておきたい。

「分かってるよ。案外、敵は身近にいるかもしれねぇんだろ？　さすがの俺でも、この状況じゃ暴れたりしねぇよ」

　鯖洲はそう言うと、冥が片付けていたピッキングツールのほうに視線をやった。

「それより、ふと思ったんだけどよ。そいつで鍵を開けることができるってことは、逆に鍵を閉めたりすることもできるんだよな？」

　密室の謎。それをこれから調べようという矢先に、鯖洲はとんでもない角度からの発想を持ち出したらしい。いや、ごくごく普通に考えれば、大掛かりの仕掛けを駆使したトリックよりも現実的な考えかもしれない。

「理論上は可能です。それなりの技術は必要になるでしょうが、鍵を開けることができる以上、実は鍵を閉めることも可能です」

　これは、とんでもない冒涜といえよう。そう、これまで長い歴史のあるミステリへの冒涜。しかしながら、実に現実的なものでもある。

「だったらよ、犯人もピッキングツールとかいうやつを使って、ピッキングで鍵を閉めたんじゃねぇか？　ほら、そうすりゃ密室の出来上がりだ」

　なかば予想できていた推測を堂々と持ち出す鯖洲。しかしながら、現実的であり、可能性としては充分にあり得るものだ。

「残念ですが、その可能性は低そうですね。ピッキングツールを使った場合、その大抵が鍵穴に痕跡が残ります。警察もここを開ける前に確認したようですが、それらしき痕跡はなかったと記録されています」

　冥の言葉を受けて、鯖洲が倉庫の外に出る。ピッキングの痕跡を確認しに行ったのであろう。