ロンダリングプリンセス―事故物件住みます令嬢―

鬼霧宗作

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ケース5 誕生秘話は惨劇へ【出題編】

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「それにしても――倉庫という名目にしては、本当に何もありませんわね」

 警察が倉庫の中身を片付けたとは思えない。良くも悪くも、無機質な空間は最初からそのままだったように思えた。

「そもそも、なぜ窓辺野不動産はここを買い取ったのでしょうか?」

 冥はそう言うと、資料をめくる。そして、やや目を大きくした。いつもならば、資料の全てを把握しているはずの彼女であるが、今回はコトリの部屋から、必要最低限だと思われる資料を、その場で持ち出したのだ。きっと、冥が把握できていない情報も多いのであろう。

「ここを買い取った理由については不明ですが、その取り引きを担当した人物が、どうやらきな臭いみたいですね」

 冥はそう言いながら、ある資料を目の前に突き出した。それに顔を素直に近づけてしまう鯖洲とコトリ。

「担当した営業は大東――? 大東って確か、干しかんぴょうの事件でお嬢が犯人だって指摘した奴じゃなかったか?」

 コトリは小さく頷いた。大東は、かつて一里之が所属していた部署での同僚だったはず。そして、例の干しかんぴょうの事件においては、容疑者の1人となった人物だった。コトリの推理の結果、彼が犯人だということに落ち着いたのであるが、しかしそこで事件はコトリの中で解決してしまったせいで、真相を突き止めるにはいたっていなかった。

「えぇ、そうですね。今でも窓辺野不動産にいると思いますが――」

 冥の返答に、鯖洲が左の手のひらを開き、そこに拳をぶつける。もう、暴力だとか、そういう類の力を発揮する気でいるのだろう。

「だったら話は早い。干しかんぴょうの件もあるし、そいつを締め上げれば、何か分かるかもしれねぇぞ。お嬢には悪いけどよ、あの干しかんぴょうの事件はなんだかモヤモヤしてたんだよ。大体、大東とかいうやつが、どうして家を売りたいと言ってた家の婆さんを殺す必要があったんだ?」

 コトリがこれまでやってきたことは、事件を解決に導くことではなく、それっぽく導くことにより、自己満足感を得ることだった。姉の事件を忘れるため、姉というトラウマを抑え込むために、これまでずっと行ってきた儀式のようなもの。しかし、もう目を背け続けるわけにはいかないようだ。今こそ、向き合わねばならない時かもしれない。

「セバスチャン、手荒な真似はやめなさい。ただ、大東という人物から、お話を聞いて損はなさそうですわね。もう少しここを調べたら、話を聞きに会社に向かうことにしますわ」
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