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ケース5 誕生秘話は惨劇へ【出題編】

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「まさかとは思うが、同一の犯人の仕業――ってことはねぇよな?」

 鯖洲の言葉に対して、コトリは頷きもできなかったし、首を横に振ることもできなかった。現実的に考えればあり得ないことではあるが、しかし可能性としてゼロではないからだ。

「そもそも、家族のうち2人もの人間が殺されてしまう家族というもの珍しいと思いますわ。だから、その可能性も否定はできませんわね。もちろん、肯定もしないけれども」

 家族のうち2人が、他殺という形でこの世を去った。たまたま、別々の殺人鬼に狙われてしまったと考えるより、同一の人物に狙われたと考えたほうが、なんだかしっくり来るような気がした。ただ、起きていることが非現実的すぎるせいで、どうにも安っぽい推理に思えてならないのだ。

「お嬢様、その話は一旦置いておきましょう。帰りのことも考えると、あまりここで時間を使うわけにはいきません。道も整備されていませんでしたし、暗くなってしまったら下山さえ難しくなってしまうかも」

 自然と動悸がしていたことに、冥は気づいてくれたのだろうか。このまま話題を切り替えずにいたら、我を失っていたかもしれない。それほどに姉の事件はいまだにトラウマだ。そのトラウマに、どうやら父の死も加わるらしい。そう考え始めると、またしても動悸が――。慌てて話を切り替えることで、自分を誤魔化すことにした。

「そうですわね。現場となった倉庫も明るいうちに見ておかないと――。セバスチャン、行きますわよ」

 とにかく気持ちを切り替えねばならないという想いが、きっと空元気となって表に出たのであろう。鯖洲と冥を引き連れて、現場となった倉庫に向かった。

「改めて見てみると、チンケな倉庫だな。思ったよりも大きくもねぇし」

 鯖洲は倉庫を眺めつつ苦笑いを浮かべた。少なくとも、こことは場違いに見えてしまう。丸太を組んで作り上げられたような建物だから、キャンプ場にぴったりのように思えるのだが、なぜが周囲の景色から妙に浮いて見えた。

「遠目に見た感じだと、切り出した板を組み合わせて壁を作っていると思ったのだけど、丸太を積み上げたものが、そのまま壁になっているのですね。ちょっと小洒落たロッジ――といった具合ですか」

 冥は小洒落たロッジだと表現したが、周囲の景色から浮いているように見えるせいか、小洒落ているようには見えなかった。簡素な造りすぎて無機質には見えるのであるが。
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