236 / 391
ケース5 誕生秘話は惨劇へ【出題編】
13
しおりを挟む
暇を出しているだけあり、家の名は静まり返っている。だからこそ、今日は冥と鯖洲を部屋まで上げたわけだが、この静けさこそが窓辺野家の一大事を暗に告げていた。
こんな時に家を放って外に出ようとする。なんとも罰当たりな娘なのであろうが、今回ばかりは勘弁して欲しい。普段からわがままをさせてもらってはいるが、もうひとつだけわがままを受け入れて欲しかった。
冥と一緒になってエントランスホールを外へと向かう。いくら使用人がいるとはいえ、この家にコトリと母親の2人だけでは広すぎるかもしれない。
家の外に出ると「こちらでございます」と冥。家を出たからといって、すぐに道路へと出られるわけがない。広大な庭を突っ切ってこそ、ようやく正門より外に出ることができる。
「ここ数日、庭も手入れされておりませんから、お足元にはお気をつけください」
家主の死。それはすなわち、家の死を意味するのではないだろうか。当たり前のように行われていた仕事やルーティンは、父の死をきっかけに滞ってしまっている。まるで心臓が止まったことで、血液が全身に行き渡らなくなってしまったかのごとく。
「心配いりませんわ。一応、美容のために歩くようにしているから」
コトリのことを、どこまでお嬢様扱いしてくれているのだろうか。庭を歩く際に、手を引いてくれようとする冥。さすがにそれはお断りした。
庭を突っ切って、正門から外に出ると、そこはようやく外の世界だ。窓辺野家の敷地内ではなく、文字通りの外である。かつて、姉の事件があったのち、母はコトリを家の中に閉じ込めた。それこそ、名前通りに窓辺のコトリにしようとした。それだけ姉が死んでしまったことがショックだったのであろう。しかし、その抑えつけがあったせいなのか、コトリは妙なベクトルへと関心を向けることになる。それが結果的に自我を守る行動に繋がっている――なんて医者に後から診断されてもコトリとしては困るだけだ。
ひとつだけ確実なことがあった。この家にとって、姉を失った事件はあまりにも代償が大きすぎた。そこに追い討ちをかけるかのごとく、父までもが家からいなくなってしまった。ひと家族のうち、2人もの人間が他殺によってこの世を去るなんてことがあっていいのだろうか。
冥の後に続いて歩くことしばらく。有料の駐車場の看板が見えると、その真下に見慣れた高級車が停まっていることに気づいた。その高級車に寄りかかって待っていたのは鯖洲だ。
こんな時に家を放って外に出ようとする。なんとも罰当たりな娘なのであろうが、今回ばかりは勘弁して欲しい。普段からわがままをさせてもらってはいるが、もうひとつだけわがままを受け入れて欲しかった。
冥と一緒になってエントランスホールを外へと向かう。いくら使用人がいるとはいえ、この家にコトリと母親の2人だけでは広すぎるかもしれない。
家の外に出ると「こちらでございます」と冥。家を出たからといって、すぐに道路へと出られるわけがない。広大な庭を突っ切ってこそ、ようやく正門より外に出ることができる。
「ここ数日、庭も手入れされておりませんから、お足元にはお気をつけください」
家主の死。それはすなわち、家の死を意味するのではないだろうか。当たり前のように行われていた仕事やルーティンは、父の死をきっかけに滞ってしまっている。まるで心臓が止まったことで、血液が全身に行き渡らなくなってしまったかのごとく。
「心配いりませんわ。一応、美容のために歩くようにしているから」
コトリのことを、どこまでお嬢様扱いしてくれているのだろうか。庭を歩く際に、手を引いてくれようとする冥。さすがにそれはお断りした。
庭を突っ切って、正門から外に出ると、そこはようやく外の世界だ。窓辺野家の敷地内ではなく、文字通りの外である。かつて、姉の事件があったのち、母はコトリを家の中に閉じ込めた。それこそ、名前通りに窓辺のコトリにしようとした。それだけ姉が死んでしまったことがショックだったのであろう。しかし、その抑えつけがあったせいなのか、コトリは妙なベクトルへと関心を向けることになる。それが結果的に自我を守る行動に繋がっている――なんて医者に後から診断されてもコトリとしては困るだけだ。
ひとつだけ確実なことがあった。この家にとって、姉を失った事件はあまりにも代償が大きすぎた。そこに追い討ちをかけるかのごとく、父までもが家からいなくなってしまった。ひと家族のうち、2人もの人間が他殺によってこの世を去るなんてことがあっていいのだろうか。
冥の後に続いて歩くことしばらく。有料の駐車場の看板が見えると、その真下に見慣れた高級車が停まっていることに気づいた。その高級車に寄りかかって待っていたのは鯖洲だ。
0
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説
黄昏は悲しき堕天使達のシュプール
Mr.M
青春
『ほろ苦い青春と淡い初恋の思い出は・・
黄昏色に染まる校庭で沈みゆく太陽と共に
儚くも露と消えていく』
ある朝、
目を覚ますとそこは二十年前の世界だった。
小学校六年生に戻った俺を取り巻く
懐かしい顔ぶれ。
優しい先生。
いじめっ子のグループ。
クラスで一番美しい少女。
そして。
密かに想い続けていた初恋の少女。
この世界は嘘と欺瞞に満ちている。
愛を語るには幼過ぎる少女達と
愛を語るには汚れ過ぎた大人。
少女は天使の様な微笑みで嘘を吐き、
大人は平然と他人を騙す。
ある時、
俺は隣のクラスの一人の少女の名前を思い出した。
そしてそれは大きな謎と後悔を俺に残した。
夕日に少女の涙が落ちる時、
俺は彼女達の笑顔と
失われた真実を
取り戻すことができるのだろうか。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
リモート刑事 笹本翔
雨垂 一滴
ミステリー
『リモート刑事 笹本翔』は、過去のトラウマと戦う一人の刑事が、リモート捜査で事件を解決していく、刑事ドラマです。
主人公の笹本翔は、かつて警察組織の中でトップクラスの捜査官でしたが、ある事件で仲間を失い、自身も重傷を負ったことで、外出恐怖症(アゴラフォビア)に陥り、現場に出ることができなくなってしまいます。
それでも、彼の卓越した分析力と冷静な判断力は衰えず、リモートで捜査指示を出しながら、次々と難事件を解決していきます。
物語の鍵を握るのは、翔の若き相棒・竹内優斗。熱血漢で行動力に満ちた優斗と、過去の傷を抱えながらも冷静に捜査を指揮する翔。二人の対照的なキャラクターが織りなすバディストーリーです。
翔は果たして過去のトラウマを克服し、再び現場に立つことができるのか?
翔と優斗が数々の難事件に挑戦します!
ARIA(アリア)
残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……
どんでん返し
あいうら
ミステリー
「1話完結」~最後の1行で衝撃が走る短編集~
ようやく子どもに恵まれた主人公は、家族でキャンプに来ていた。そこで偶然遭遇したのは、彼が閑職に追いやったかつての部下だった。なぜかファミリー用のテントに1人で宿泊する部下に違和感を覚えるが…
(「薪」より)
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる