上 下
226 / 391
ケース5 誕生秘話は惨劇へ【出題編】

3

しおりを挟む
「なんて顔をしているの? もう少しシャキッとしたらいかがかしら?」

 コトリだった。彼女は不敵な笑みを浮かべてはいるが、目が若干腫れているように見える。実の父を失ってしまったのだ。おそらく泣き腫らしたのであろう。

「あの、大丈夫――ですか?」

「心配無用ですわ。それに、その言葉はこっちの台詞でしょうに」

 心配されるべきは一里之の立場であろうが、泣き腫らしたであろうコトリの顔を見て、不意にそんな言葉が出た。それを遮るようにしてコトリは無理矢理笑顔を作った。表向きでは、一里之がコトリの父親を殺害したことになっているというのに。

「先ほども言いましたが、あなたに人を殺すような度胸はございません。今はご自身の冤罪を晴らすことを最優先としたほうが良いかと思います」

 面会時間はわずか15分。どうやら、その15分はかなり濃密なものになりそうだ。

「その前にほら、差し入れだ」

 鯖洲はそう言いながらビニール袋を掲げる。どのような手続きで差し入れをするのかは分からないが、警察官と目が合ったのを確認したのか、鯖洲は中央仕切り版の、申し訳程度のテーブルの上にビニール袋を置いた。

「あ、ありがとうございます」

 ビニール袋の外側しか見えていないが、質感からして着替えが入っているようだった。なんともありがたいことだ。

「――そもそもお世話係は出社しませんから、特別な対処はしていませんわ。マスコミに対しても、少しばかり圧力をかけたから、数日程度ならば時間が稼げるでしょう」

 コトリとて大変だろうに、色々と手回しをしてくれたようだ。それだけ信頼してもらっているのであろうが、実にありがたいことだ。

「マスコミは疑いがあるだけでも犯人扱いして報道するからな。お前の名誉を守るのも並大抵のことじゃねぇってことだ」

 鯖洲がコトリの言葉に乗っかる。後ろで警察官が全ての話を聞いているわけだが、こんなことまで話をして大丈夫なのだろうか。まぁ、止められてはいないから問題はないのだろうが。

「それで、俺は具体的に何をすれば――」

 一里之が問うと、椅子に座っていたコトリが姿勢を正す。鯖洲と冥も立ち位置を改めたような気がした。

「念のために確認だけ先にしておきますわ。一里之君はお父様を誘拐していなければ、殺害もしていない。それは間違いありませんわね?」

 コトリ達は信じてくれているが、言葉として確たるものにしておきたいのであろう。一里之は小さく息をのむと、力強く頷いた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

悪女と呼ばれた王妃

アズやっこ
恋愛
私はこの国の王妃だった。悪女と呼ばれ処刑される。 処刑台へ向かうと先に処刑された私の幼馴染み、私の護衛騎士、私の従者達、胴体と頭が離れた状態で捨て置かれている。 まるで屑物のように足で蹴られぞんざいな扱いをされている。 私一人処刑すれば済む話なのに。 それでも仕方がないわね。私は心がない悪女、今までの行いの結果よね。 目の前には私の夫、この国の国王陛下が座っている。 私はただ、 貴方を愛して、貴方を護りたかっただけだったの。 貴方のこの国を、貴方の地位を、貴方の政務を…、 ただ護りたかっただけ…。 だから私は泣かない。悪女らしく最後は笑ってこの世を去るわ。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ ゆるい設定です。  ❈ 処刑エンドなのでバットエンドです。

名前のない

sagiri
ミステリー
夫婦は最後の時を迎えていた。 謎の白い女、彼女さえいなければ… そして同じ事件に巻き込まれた4人の女。 彼女達は事件の鍵を握っているのか?

クトゥルーの復活、その他の物語

綾野祐介
ホラー
全ての行動には意味がある、あまりにも恐ろしい意味が。 日本、世界で始まる旧支配者たちの復活。 若しくは封印を解かれようとする旧支配者たち。 交差する思惑、暗躍する漆黒の影。 立ち向かおうとする人間はあまりにも非力である。 これは、そんな非力な人類が強大な力に出来得るかぎ限り抗おうとする物語。 抗う先にあるものは希望か、絶望か。 人類の存亡をかけた戦いの中に、あなたは何を感じるのだろうか。

独裁者・武田信玄

いずもカリーシ
歴史・時代
歴史の本とは別の視点で武田信玄という人間を描きます! 平和な時代に、戦争の素人が娯楽[エンターテイメント]の一貫で歴史の本を書いたことで、歴史はただ暗記するだけの詰まらないものと化してしまいました。 『事実は小説よりも奇なり』 この言葉の通り、事実の方が好奇心をそそるものであるのに…… 歴史の本が単純で薄い内容であるせいで、フィクションの方が面白く、深い内容になっていることが残念でなりません。 過去の出来事ではありますが、独裁国家が民主国家を数で上回り、戦争が相次いで起こる『現代』だからこそ、この歴史物語はどこかに通じるものがあるかもしれません。 【第壱章 独裁者への階段】 国を一つにできない弱く愚かな支配者は、必ず滅ぶのが戦国乱世の習い 【第弐章 川中島合戦】 戦争の勝利に必要な条件は第一に補給、第二に地形 【第参章 戦いの黒幕】 人の持つ欲を煽って争いの種を撒き、愚かな者を操って戦争へと発展させる武器商人 【第肆章 織田信長の愛娘】 人間の生きる価値は、誰かの役に立つ生き方のみにこそある 【最終章 西上作戦】 人々を一つにするには、敵が絶対に必要である この小説は『大罪人の娘』を補完するものでもあります。 (前編が執筆終了していますが、後編の執筆に向けて修正中です)

アイポーツと幸福な処刑場

Onfreound
ミステリー
 気がつくと"アイポーツ"という世界に連れてこられた主人公。  ここが何処かも、自分が何者なのかもよくわからないまま、アイポーツを探っていく。

ダンジョンが出現して世界が変わっても、俺は準備万端で世界を生き抜く

ごま塩風味
ファンタジー
人間不信になり。 人里離れた温泉旅館を買い取り。 宝くじで当たったお金でスローライフを送るつもりがダンジョンを見付けてしまう、しかし主人公はしらなかった。 世界中にダンジョンが出現して要る事を、そして近いうちに世界がモンスターで溢れる事を、しかし主人公は知ってしまった。 だが主人公はボッチで誰にも告げず。 主人公は一人でサバイバルをしようと決意する中、人と出会い。 宝くじのお金を使い着々と準備をしていく。 主人公は生き残れるのか。 主人公は誰も助け無いのか。世界がモンスターで溢れる世界はどうなるのか。 タイトルを変更しました

令和百物語

みるみる
ホラー
夏になるので、少し怖い?話を書いてみました。 一話ずつ完結してますが、百物語の為、百話まで続きます。 ※心霊系の話は少なめです。 ※ホラーというほど怖くない話が多いかも知れません。 ※小説家になろうにも投稿中

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

処理中です...