ロンダリングプリンセス―事故物件住みます令嬢―

鬼霧宗作

文字の大きさ
上 下
222 / 391
ケース5 誕生秘話は惨劇へ【プロローグ】

3

しおりを挟む
 ドアノブがガチャガチャと回される。しかしながら、空回りするばかりで扉が開くことはなかった。

「……鍵がかかっているな。おい、鑑識係に話をつけてこい」

 どうやら扉には鍵がかかっているらしい。冷静な口調から滲み出る苛立ちのようなものを感じつつ、一里之は自身の立場に身震いした。

 窓ひとつない空間で、外に出るであろう扉には鍵がかかっているようだ。中からつまみを回すだけで施錠できるタイプらしい。それにくわえて、素人目に見ても絶命してしまっている社長。誰がどう考えたって間違いない。これは、自然と一里之のほうに疑いの目が向けられてしまう状況なのではないか。

「こいつを解錠して欲しい。できそうですか?」 

 テレビなんかでは、鍵のかかった部屋は刑事の体当たりなどで開けるのが定番であるが、そんな余計な労力は使わない世の中になったのか。いいや、元から現実はそんなものだったのかもしれない。

「あー、多少は時間をもらいますけど、そこまで難しい形状ではないですねぇ」

 外からやり取りが聞こえると、鍵穴に何かが差し込まれた音が響く。そこから断続的にカチャカチャと音がした。きっと、何かしらの器具を差し込んで解錠しているのであろう。

 一体、なにが起こっているのだろうか。気がついたら見知らぬ場所で、なぜだか社長の死体が一緒だった。出入り口であろう扉には内側……すなわち、一里之側から鍵がかかっており、ぞくにいう密室状態。言い訳をしようにも言い訳できない状態だ。むろん、言い訳をしなければならないようなことは、神に誓ってやっていないのだが。いや、神がいるのだとしたら、そもそもこんな状況に陥ってはいない。

 しばらく鍵穴のなかで器具が動いていたようだが、ある時を境に音がしなくなり、そして、少し大き目にカチャンと音が響いた。つまみが勝手に回るのを一里之は見た。今さらかもしれないが、社長の体を床に横たわらせ、少しばかり距離を取った。もちろん、無駄な抵抗であることは間違いないが。

 扉がゆっくりと開く。外は昼間のようだったが、部屋は蛍光灯の灯りで照らされているためか、むしろ外が暗く見えた。その先に見えた屈強そうな男達の姿と、一里之の置かれている状況が、外の景色を変えてしまったのかもしれない。

 中の異変を察したのか、一里之の姿を見るなり「警察です! 動かないでください!」と声を張り上げる先頭の男。抵抗の意志はないという意味合いを込めて、一里之は両手を挙げた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

ミノタウロスの森とアリアドネの嘘

鬼霧宗作
ミステリー
過去の記録、過去の記憶、過去の事実。  新聞社で働く彼女の元に、ある時8ミリのビデオテープが届いた。再生してみると、それは地元で有名なミノタウロスの森と呼ばれる場所で撮影されたものらしく――それは次第に、スプラッター映画顔負けの惨殺映像へと変貌を遂げる。  現在と過去をつなぐのは8ミリのビデオテープのみ。  過去の謎を、現代でなぞりながらたどり着く答えとは――。  ――アリアドネは嘘をつく。 (過去に別サイトにて掲載していた【拝啓、15年前より】という作品を、時代背景や登場人物などを一新してフルリメイクしました)

魔女の虚像

睦月
ミステリー
大学生の星井優は、ある日下北沢で小さな出版社を経営しているという女性に声をかけられる。 彼女に頼まれて、星井は13年前に裕福な一家が焼死した事件を調べることに。 事件の起こった村で、当時働いていたというメイドの日記を入手する星井だが、そこで知ったのは思いもかけない事実だった。 ●エブリスタにも掲載しています

この欠け落ちた匣庭の中で 終章―Dream of miniature garden―

至堂文斗
ミステリー
ーーこれが、匣の中だったんだ。 二〇一八年の夏。廃墟となった満生台を訪れたのは二人の若者。 彼らもまた、かつてGHOSTの研究によって運命を弄ばれた者たちだった。 信号領域の研究が展開され、そして壊れたニュータウン。終焉を迎えた現実と、終焉を拒絶する仮想。 歪なる領域に足を踏み入れる二人は、果たして何か一つでも、その世界に救いを与えることが出来るだろうか。 幻想、幻影、エンケージ。 魂魄、領域、人類の進化。 802部隊、九命会、レッドアイ・オペレーション……。 さあ、あの光の先へと進んでいこう。たとえもう二度と時計の針が巻き戻らないとしても。 私たちの駆け抜けたあの日々は確かに満ち足りていたと、懐かしめるようになるはずだから。

カフェ・シュガーパインの事件簿

山いい奈
ミステリー
大阪長居の住宅街に佇むカフェ・シュガーパイン。 個性豊かな兄姉弟が営むこのカフェには穏やかな時間が流れる。 だが兄姉弟それぞれの持ち前の好奇心やちょっとした特殊能力が、巻き込まれる事件を解決に導くのだった。

回想録

高端麻羽
ミステリー
古き良き時代。 街角のガス灯が霧にけぶる都市の一角、ベィカー街112Bのとある下宿に、稀代の名探偵が住んでいた。 この文書は、その同居人でありパートナーでもあった医師、J・H・ワトスン氏が記した回想録の抜粋である。

【完結】共生

ひなこ
ミステリー
高校生の少女・三崎有紗(みさき・ありさ)はアナウンサーである母・優子(ゆうこ)が若い頃に歌手だったことを封印し、また歌うことも嫌うのを不審に思っていた。 ある日有紗の歌声のせいで、優子に異変が起こる。 隠された母の過去が、二十年の時を経て明らかになる?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~

橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。 記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。 これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語 ※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります

処理中です...