ロンダリングプリンセス―事故物件住みます令嬢―

鬼霧宗作

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ケース4 ロンダリングプリンセス誕生秘話【解決編】

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「あの事件のこと、私はもうこれ以上口外することはないでしょう。あくまでも私は可能性の話をしたのであって、それが確実であるという裏取りはできていません。これを踏まえて、今後どうされるかは――お任せします」

 パンドラの箱だった。そう、これは決して開けてはならなかったパンドラの箱。果たして、その箱の底に何があったのか――それは、親族でもない一里之が知るべきではない。それどころか、もう数日すれば地元を離れ、日常の生活へと戻ってしまうのだ。結果的に卑怯な形になることが心残りではある。

 死んでしまった娘の名誉のために、真実を明らかにして息子に罪を償わせるか。それとも、娘は自殺ということにしたまま、細々と息子と暮らすか。引きこもりとなってしまった経緯は詳しく知らないが、女手ひとつで家庭を回すとなると、かなりの苦労を要することは火を見るより明らかだ。

「……息子と話をしてみます。どれくらいぶりだか分からないけど」

 絞り出すように漏らした愛の母親は、どこかスッキリしたような顔をしていた。モヤモヤしたものを抱えていたのは、きっと一里之だけではなかったのであろう。

「はい、是非ともそうしてください。その上で、今後どうするのかを決めたほうが良いかと」

 この家族の問題。それをどのように解決するのかは、あくまでもこの家族が決めるべきだ。千早の言葉の中には、そのようなニュアンスが強く含まれていた。

「一里之君、そろそろおいとましましょう」

 千早はそう言うと、愛の母親に「それでは、私達はこれで」と断りを入れる。一里之は千早に続いて立ち上がると、無言で愛の母親に頭を下げた。

 外に出ると、恐ろしいほどの快晴だった。来た時も同じような天候だったはずだが、周囲の重苦しい空気が取っ払われたような印象を受けた。まるで家そのものが浄化されたようである。

「猫屋敷、あんな形で投げてきて大丈夫なのかよ?」

 車に乗り込むと、念のために問うてみた。愛の母親に結末を委ねてしまったようなものだから、千早の真意が知りたかった。おおよそ予測はできるのだが。

「私は警察ではありません。もちろん、法的に人を裁く手段も持ち合わせていません。ですから、あそこを着地点としたのです。今後をどうするかは、当事者達が決めるべきです」

 車のエンジンをかけると、冷え切らない風がエアコンの送風口から出てくる。夏本番。どうやら、一里之の夏休みもそろそろ終わりを迎えるらしい。
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