ロンダリングプリンセス―事故物件住みます令嬢―

ケース４ ロンダリングプリンセス誕生秘話【解決編】

4

　現場に残されていた証拠品は、愛の父親のクレジットカードで購入されていた。だからこそ、愛の父親が疑わしくなったのであるが、実際のところ息子がカードを使用しても不審がられないだろう。一応、クレジットカードは本人しか使えないという体裁になってはいるが、サインレスのところなどは簡単にすり抜けることができる。いや、サインが必要なところであっても、わざわざ本人確認まではされない。愛の兄とやらが父親のクレジットカードを使用することは、そこまでハードルが高いものでもないだろう。

「あらゆる可能性を考慮しました。もちろん、愛さんが自ら命を絶った可能性も考えました。しかしながら、遺書らしきものが残されていただけでは、証拠として弱すぎます。まぁ、実物を見たわけではないのですが」

　遺書が残されていたという話であるが、果たしてどんなものだったのか。おそらくは、パソコンで文章を打って、それをプリントしたようなものなのであろう。

「でも、あの子は繊細な部分があって――」

　明らかに狼狽うろたえた様子の母親。なるほど、一度は千早のところを訪ねておきながら、愛の両親が千早の協力を断った理由がなんとなく分かった。すなわち、この結論にたどり着かれてしまうことをおそれたのだ。多分、母親のほうではなく父親のほうが。

「確かに愛さんには繊細なところがあったりしましたよ。でも、私の知っている愛さんは――交際している彼に何も言わずに命を絶つなんて薄情な真似はしません。それに、悩みがあるなら私達に相談してくれていたはずです」

　千早は仏壇のほうへと歩み寄ると、写真立ての中で笑っている愛を一瞥した。

「こんなことを根拠とは認めたくありません。ですが、愛さんが私達に何も言わずに姿を消すなんてことは絶対にあり得ないことなんです。だから、自殺の可能性なんて、最初の最初に排除していました」

　千早らしくない。なんとも千早らしくない根拠だ。しかしながら、実に説得力のある根拠でもあった。千早は仏壇の前に座ると、あえて母親のほうを見ないようにしながら続けた。

「もし、私の推測が正しければ、この家庭はめちゃくちゃになってしまうでしょう。でも、愛さんが自殺したと思われたままなのは、いち友人として我慢なりません。こうして、真相に近づいたからこそ、なおさらです」