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ケース4 ロンダリングプリンセス誕生秘話【解決編】

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 思わず困惑の声を漏らしそうになる。愛に兄がいた――それは、当時交際をしていたはずの一里之でさえ知らない情報だった。

「くわえて、こんなことは指摘したくありませんが、そのお兄様は当時からずっと、この家に引きこもっているのではないですか?」

 千早の指摘に天井から音が聞こえたような気がした。上の階にいるとは限らないのに、人間の先入観というものはおそろしい。愛の母親は返答に困っているようだった。そこに畳みかける千早。

「愛さんはご家族のことを、当時恋人であった一里之君にすら話したがりませんでした。そして、この家庭では、その存在を隠すかのように、写真が不自然に加工されてしまっていた」

 愛が家族の話をしないのは、引きこもりの兄がいたからだったのか。そう考えると、この家に一里之が初めて訪れたことにも納得がいく。随分と前のことだから覚えていないが、もしかすると家の中に入れなかったのは、愛に拒否されたからなのかもしれない。ざっと振り返ってみると、自分の勇気がなかっただけのように思えてしまうのだから、人間の記憶というものは曖昧である。

「――やり方として正しいとは思いません。しかしながら、この家から存在を極力消してしまうことで、この家庭の安寧を図ったであろうことは容易に想像できます」

 千早の推測を聞いて、愛の母親は天井の隅へと視線をやった。その視線の先に兄の部屋があるのだろう。なおも続ける千早。

「そして、家族にそんな扱いをされてしまった本人が、マイナスの感情を溜め込んでいったことも簡単に予測できます。自分はこの世から隔離されてしまったというのに、実の妹は何事もないかのごとく、ごくごく当たり前の生活を送っている。自分の存在をなかったことにして、今日も生きている。本人に確認しなければなりませんが、そのように鬱憤が溜まっていったことは間違いないでしょう。充分に動機となるのではないでしょうか?」

 その言葉尻から推測されるものは、実に残酷なものだった。でも千早は手を抜かない。さらに残酷な現実を突きつける。

「ホームセンターで脚立とロープを購入したのも、愛さんのお父様ではなく、お兄様だったのではないでしょうか? 免許と車があれば運搬も難しくない。おそらく、車はお父様のものを拝借したのでは? そう考えると、必然的にお父様が疑われることになってしまうのも腑に落ちます」
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