ロンダリングプリンセス―事故物件住みます令嬢―

ケース４ ロンダリングプリンセス誕生秘話【出題編】

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「あ、うちのお父さんね。あそこの地域の出身なの。私と結婚するまではあっちのほうに住んでいたんだけどね、結婚と同時に家を出て、ここに家を建てたのよ。小さい頃は、よく娘達を連れて、あっちのほうに遊びに行ったりしていたのよ」

　こちらの疑問を感じ取ったのか、母親は目を細めて遠い目をした。どうやら、愛の父親は、千早が店を構える地域の出身だったらしい。そんなこと、愛の口から一言も聞いたことがなかったのだが。

　仏壇の近くの壁には、家族の写真が飾られている。どれも愛を中心にしたものであり、中には父親と母親のいずれかが切れてしまっているものもあった。一里之につられるかのように、その写真を凝視していた千早は、小さく吐息を漏らすと「いただきます」と出されたお茶に手を伸ばした。一口飲むと改めて口を開く。

「では、あの神社の存在を愛さんが知っていた可能性もあるということですね？」

　愛が自殺ではないという根拠のひとつ。そもそも、千早の地域について土地勘がなく、神社の場所なんて知らなかったであろうという推測。それはどうやら、父親がそちらの地域出身だったということで解決してしまいそうだ。

「小さい頃、あそこによく連れて行った……ってお父さんが何度も言っていたのを覚えています。あんなところ連れて行くんじゃなかったって」

　案の定、愛が自殺ではないという貴重な根拠が潰されてしまった。すなわち、愛は神社の存在を知っていたということになる。そうなれば、そこを自殺の場と選んだことの不自然さは薄れることだろう。もちろん、それだけで全てが否定されるものでもないのだが。

「あの――」

　ふと、会話が途切れたところで、愛の母親の視線が一里之のほうへと向けられた。急に声をかけられたこともあってか、返事をする声が妙に裏返ってしまった。

「は、はい！」

「確か、娘の葬儀の時にもいらしていたと思うのですが――」

　なぜ無関係の男が同行しているのだ。ざっくらばんな解釈をすると、そういうニュアンスになるのだろう。確かに、ご両親からすれば葬儀にいただけの、そこまで深い関係でもないであろう関係――に見えてしまうのであろう。

「お、俺は一里之純平っていいます。あ、愛さんとは友達だった――」

「彼氏です。当時、愛さんがお付き合いしていた男性が、彼なんです」

　あえてそこには触れないようにしていたのに、一里之の言葉をあっさりと遮ってくれる千早。愛の母親は驚いたかのように、一里之と千早の間に視線を往復させた。