ロンダリングプリンセス―事故物件住みます令嬢―

鬼霧宗作

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ケース4 ロンダリングプリンセス誕生秘話【出題編】

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「昨年の冬だったんだけど、お父さん――心臓が悪くてね。眠るように亡くなっちゃったの」

 一里之と千早の視線が、自然とそちらに向いたことに気づいたのであろう。力なく笑みを浮かべてはいたが、実に寂しそうに呟いた。どうやら、愛の父親は亡くなってしまったらしい。もし、あの世というものがあるのならば、あちらのほうで娘との再会を果たしたのだろうか。それを確かめるすべは、残念なことに生者の一里之達にはない。

「そうですか――。お線香をあげさせていただいても?」

 千早は断りを入れると、一里之より先に仏壇の前へと座る。手慣れているのか、その所作は流れるように見えた。

 一里之は少し離れた場所に座り、千早の動きを目で追う。途中で仏壇に置いてある愛の写真と目が合った。まさか、かつての恋人に、こんな形で再会するなんて思ってもいなかったであろう。いいや、そもそも誰かに殺害されたこと自体、想像もつかなかったに違いない。

 線香を失敬すると、火をつける。そして鐘を鳴らした。鐘の呼び方は様々らしいが、この際そんなことはどうでも良かった。線香の匂いの中、澄んだ鐘の音が響いた。それに合わせて、両手を合わせて目を閉じる。鐘の音が残響のように、真っ暗な心の中に染み渡るように消えていった。

「今、お茶を出しますね。楽にして待っていてください」

 闇の中から一里之を引き上げたのは、愛の母親の声だった。

「いえ、お構いなく」

 このようなやりとりというのは、なかば社交辞令のようなものなのであろう。愛の母親に言われた通り、近くに置いてあったテーブルのほうへと移動する。ただ、なんとなく楽にできず、正座したままの一里之。千早はそれがスタンダードな座りかたなのか、正座の姿勢を崩さない。もう、足先が痺れてきたような気がする。

「思い返すと、もう随分と昔のことね。あの子が自殺するなんて、今でも信じられないけど。しかも、まさかあの場所だなんて」

 湯呑みをテーブルの上に並べながら愛の母親が口を開く。会話がないのも気まずいからと、無理矢理に口を開いているような印象があった。

「あの場所――ですか。確かお父様のほうが、当時同じようなことを言っていたような気がするのですが」

 茶葉を入れた急須から、茶を湯呑みに注ぎつつ母親は頷く。

「えぇ、ずっとうわ言みたいに言っていたわね。なぜよりによって、あそこなのか――って」

 一里之は、その口振りに違和感を覚えた。そんなことを言えるのは、あらかじめその場所のことを知っている人間だけではないのだろうか。
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