ロンダリングプリンセス―事故物件住みます令嬢―

鬼霧宗作

文字の大きさ
上 下
181 / 391
ケース4 ロンダリングプリンセス誕生秘話【出題編】

ケース4 ロンダリングプリンセス誕生秘話【出題編】1

しおりを挟む
【1】

 窓辺野不動産、社長令嬢誘拐監禁、及び殺害事件。その事件は警察のデータベースにも残っており、しっかりと共有されているようだった。

 斑目いわく、昔は各管轄で起きた事件の概要は、その各管轄で保存されていたそうだ。もちろん、捜査本部が立ち上がるような大きな事件ともなれば、県警も把握することになるが、アナログ時代はそれが限界だったらしい。しかしながら、今やデジタルの時代。当たり前のようにデータベースは全国で共有されており、閲覧することが可能になったそうだ。今回、斑目が引っ張り出して来てくれた情報も、データベースから引っ張って来てくれたものなのだろう。

「不動産屋の社長令嬢が誘拐され、そして廃墟となった病院で遺体となって発見された事件――ですか」

 一里之が用意したファイルにくわえて、斑目が持ち出したであろうファイルに目を通す千早。断られたら仕方がないと思っていたが、予想に反して快く引き受けてくれたことには感謝である。今回は特に曰く付きのものを査定するという形は取らないらしい。すなわち、査定にかかる手数料も取らないということだ。彼女も生活があるだろうに、こんなことに付き合わせて申し訳ないとさえ思う。

「あぁ、今――その令嬢の妹と一緒に仕事をしてるんだけど、変な奴というか、事故物件に好んで住みたがるような奴でさ。その原因がその事件にあるみたいなんだよ」

 久方ぶりに会うというのに、実に自然な感じで喋ることができる自分に驚いた。千早は高校時代の雰囲気を残したまま大人になったというイメージで、ロングスカートのワンピースであるにも関わらず、なんとなく艶かしく見えてしまう。

「曰く付きのものを好む――どこかの誰かさんにそっくりですねぇ」

 斑目が茶化すように言うと「となると、私も一里之君からすれば、変な奴ということになりますが」と真顔で返す。一里之が「いや、そんなつもりは――」と慌てると、千早はくすりと笑って「冗談ですよ。冗談」と言ってから続けた。

「とにかく、この事件が未解決になっていて、それを解明する必要があると――」

 千早はファイルをめくり、ある部分で手を止めた。

「とにかく、事件のことを最初から追いかけてみましょうか。情報量が情報量ですから、追加で調べてもらう必要が出てくるかもしれませんが」

 千早の言葉を受けて、斑目が「その辺りは警察がバックアップしましょう」と、胸を叩く。持つべきものは、スキップができない呪いがかけられた友である。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

魔女の虚像

睦月
ミステリー
大学生の星井優は、ある日下北沢で小さな出版社を経営しているという女性に声をかけられる。 彼女に頼まれて、星井は13年前に裕福な一家が焼死した事件を調べることに。 事件の起こった村で、当時働いていたというメイドの日記を入手する星井だが、そこで知ったのは思いもかけない事実だった。 ●エブリスタにも掲載しています

ミノタウロスの森とアリアドネの嘘

鬼霧宗作
ミステリー
過去の記録、過去の記憶、過去の事実。  新聞社で働く彼女の元に、ある時8ミリのビデオテープが届いた。再生してみると、それは地元で有名なミノタウロスの森と呼ばれる場所で撮影されたものらしく――それは次第に、スプラッター映画顔負けの惨殺映像へと変貌を遂げる。  現在と過去をつなぐのは8ミリのビデオテープのみ。  過去の謎を、現代でなぞりながらたどり着く答えとは――。  ――アリアドネは嘘をつく。 (過去に別サイトにて掲載していた【拝啓、15年前より】という作品を、時代背景や登場人物などを一新してフルリメイクしました)

この欠け落ちた匣庭の中で 終章―Dream of miniature garden―

至堂文斗
ミステリー
ーーこれが、匣の中だったんだ。 二〇一八年の夏。廃墟となった満生台を訪れたのは二人の若者。 彼らもまた、かつてGHOSTの研究によって運命を弄ばれた者たちだった。 信号領域の研究が展開され、そして壊れたニュータウン。終焉を迎えた現実と、終焉を拒絶する仮想。 歪なる領域に足を踏み入れる二人は、果たして何か一つでも、その世界に救いを与えることが出来るだろうか。 幻想、幻影、エンケージ。 魂魄、領域、人類の進化。 802部隊、九命会、レッドアイ・オペレーション……。 さあ、あの光の先へと進んでいこう。たとえもう二度と時計の針が巻き戻らないとしても。 私たちの駆け抜けたあの日々は確かに満ち足りていたと、懐かしめるようになるはずだから。

【完結】共生

ひなこ
ミステリー
高校生の少女・三崎有紗(みさき・ありさ)はアナウンサーである母・優子(ゆうこ)が若い頃に歌手だったことを封印し、また歌うことも嫌うのを不審に思っていた。 ある日有紗の歌声のせいで、優子に異変が起こる。 隠された母の過去が、二十年の時を経て明らかになる?

カフェ・シュガーパインの事件簿

山いい奈
ミステリー
大阪長居の住宅街に佇むカフェ・シュガーパイン。 個性豊かな兄姉弟が営むこのカフェには穏やかな時間が流れる。 だが兄姉弟それぞれの持ち前の好奇心やちょっとした特殊能力が、巻き込まれる事件を解決に導くのだった。

強制憑依アプリを使ってみた。

本田 壱好
ミステリー
十八年間モテた試しが無かった俺こと童定春はある日、幼馴染の藍良舞に告白される。 校内一の人気を誇る藍良が俺に告白⁈ これは何かのドッキリか?突然のことに俺は返事が出来なかった。 不幸は続くと言うが、その日は不幸の始まりとなるキッカケが多くあったのだと今となっては思う。 その日の夜、小学生の頃の友人、鴨居常叶から当然連絡が掛かってきたのも、そのキッカケの一つだ。 話の内容は、強制憑依アプリという怪しげなアプリの話であり、それをインストールして欲しいと言われる。 頼まれたら断れない性格の俺は、送られてきたサイトに飛んで、その強制憑依アプリをインストールした。 まさかそれが、運命を大きく変える出来事に発展するなんて‥。当時の俺は、まだ知る由もなかった。

猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~

橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。 記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。 これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語 ※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります

白昼夢 - daydream -

紗倉亞空生
ミステリー
ふと目にした一件の新聞記事が、忘れていた遠い昔の記憶を呼び覚ました。 小学生時代の夏休みのある日、こっそり忍び込んだ誰もいないはずの校舎内で体験した恐怖。 はたしてあれは現実だったのだろうか? それとも、夏の強い陽射しが見せた幻だったのだろうか? 【主な登場人物】 私………………語り手 田母神洋輔……私の友人      ※ シンジ…………小学生時代の私 タカシ…………小学生時代の私の友人 マコト…………同上 菊池先生………小学校教師 タエ子さん……?

処理中です...