179 / 391
ケース4 ロンダリングプリンセス誕生秘話【プロローグ】
7
しおりを挟む
一里之が引っかかったのは、匿名のクレームという点だった。たかだか、それだけで市というものは動くのだろうか。
「匿名のクレームが毎日ですか。しかし、それくらいで市のお金を出して建物を取り壊しますかね。まぁ、良く言えば市民の声をしっかりと汲み上げているということになるけど」
一里之と同じ部分に引っ掛かりを覚えたのであろう。斑目は「食後の一服に行きますか」とくわえて立ち上がる。一里之もそれに続いた。
喫煙所は道の駅から少し離れた場所にあった。今や屋外の喫煙ですら、色々と制限があったりするから、本当に喫煙家は肩身の狭い世の中になってしまった。先客がいると不思議と親近感さえわく。そこに肩を寄せ合うようにして、喫煙者は今日も世間の目に耐えているのだ。ならば煙草をやめたらいい
――は正論すぎるので勘弁して欲しい。
「さっきの話だけど、その匿名のクレーム――匿名なだけじゃなくて、声色もボイスチェンジャーで変えられたものだったらしいんだ。最初は悪戯扱いされていたみたいなんだけど、実際に建物が壊されることが決定されたってことだね」
一里之が調べ上げることができたのは、ここが限界だった。物件が取り壊された経緯を辿り、わざわざ当時の市職員のところを訪ねて仕入れた情報である。やろうと思えば、ここまで調べ上げることができるのだから、自分には才能があるのではないかとさえ思う。多分、たまたま運が良かっただけなのであろうが。
「つまり、そのクレームが直接的な原因かは定かではないと」
「あぁ、ただ取り壊しが決定される前に、連日クレームがあったということも確かみたいだ。当時のお偉いさんに話を聞ければ良かったけど、もう他界していたみたいで。結局、調べることができたのはそこまでなんだ」
斑目に言葉を返しつつ、食後の一服をする。なぜゆえに、食事をした後の煙草はこんなにもうまいのだろうか。理由を知っている人がいたら教えて欲しい。
「まぁ、興味深い話ではあるか。事故物件で起きた事件とやらが未解決なのは、警察の人間として不甲斐ないけど」
斑目は吸い殻を灰皿に入れると「その辺りのことも含めて、彼女がどんな意見をくれるんでしょうかね」と漏らし、自分の車のほうに向かって歩き出した。一里之が車に乗り込んだのを確認すると、エンジンをかける斑目。目的地はもう目と鼻の先。別に車ではなく、徒歩でもたどり着けるような距離だ。
「匿名のクレームが毎日ですか。しかし、それくらいで市のお金を出して建物を取り壊しますかね。まぁ、良く言えば市民の声をしっかりと汲み上げているということになるけど」
一里之と同じ部分に引っ掛かりを覚えたのであろう。斑目は「食後の一服に行きますか」とくわえて立ち上がる。一里之もそれに続いた。
喫煙所は道の駅から少し離れた場所にあった。今や屋外の喫煙ですら、色々と制限があったりするから、本当に喫煙家は肩身の狭い世の中になってしまった。先客がいると不思議と親近感さえわく。そこに肩を寄せ合うようにして、喫煙者は今日も世間の目に耐えているのだ。ならば煙草をやめたらいい
――は正論すぎるので勘弁して欲しい。
「さっきの話だけど、その匿名のクレーム――匿名なだけじゃなくて、声色もボイスチェンジャーで変えられたものだったらしいんだ。最初は悪戯扱いされていたみたいなんだけど、実際に建物が壊されることが決定されたってことだね」
一里之が調べ上げることができたのは、ここが限界だった。物件が取り壊された経緯を辿り、わざわざ当時の市職員のところを訪ねて仕入れた情報である。やろうと思えば、ここまで調べ上げることができるのだから、自分には才能があるのではないかとさえ思う。多分、たまたま運が良かっただけなのであろうが。
「つまり、そのクレームが直接的な原因かは定かではないと」
「あぁ、ただ取り壊しが決定される前に、連日クレームがあったということも確かみたいだ。当時のお偉いさんに話を聞ければ良かったけど、もう他界していたみたいで。結局、調べることができたのはそこまでなんだ」
斑目に言葉を返しつつ、食後の一服をする。なぜゆえに、食事をした後の煙草はこんなにもうまいのだろうか。理由を知っている人がいたら教えて欲しい。
「まぁ、興味深い話ではあるか。事故物件で起きた事件とやらが未解決なのは、警察の人間として不甲斐ないけど」
斑目は吸い殻を灰皿に入れると「その辺りのことも含めて、彼女がどんな意見をくれるんでしょうかね」と漏らし、自分の車のほうに向かって歩き出した。一里之が車に乗り込んだのを確認すると、エンジンをかける斑目。目的地はもう目と鼻の先。別に車ではなく、徒歩でもたどり着けるような距離だ。
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
ミノタウロスの森とアリアドネの嘘
鬼霧宗作
ミステリー
過去の記録、過去の記憶、過去の事実。
新聞社で働く彼女の元に、ある時8ミリのビデオテープが届いた。再生してみると、それは地元で有名なミノタウロスの森と呼ばれる場所で撮影されたものらしく――それは次第に、スプラッター映画顔負けの惨殺映像へと変貌を遂げる。
現在と過去をつなぐのは8ミリのビデオテープのみ。
過去の謎を、現代でなぞりながらたどり着く答えとは――。
――アリアドネは嘘をつく。
(過去に別サイトにて掲載していた【拝啓、15年前より】という作品を、時代背景や登場人物などを一新してフルリメイクしました)
魔女の虚像
睦月
ミステリー
大学生の星井優は、ある日下北沢で小さな出版社を経営しているという女性に声をかけられる。
彼女に頼まれて、星井は13年前に裕福な一家が焼死した事件を調べることに。
事件の起こった村で、当時働いていたというメイドの日記を入手する星井だが、そこで知ったのは思いもかけない事実だった。
●エブリスタにも掲載しています
ARIA(アリア)
残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……
カフェ・シュガーパインの事件簿
山いい奈
ミステリー
大阪長居の住宅街に佇むカフェ・シュガーパイン。
個性豊かな兄姉弟が営むこのカフェには穏やかな時間が流れる。
だが兄姉弟それぞれの持ち前の好奇心やちょっとした特殊能力が、巻き込まれる事件を解決に導くのだった。
猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~
橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。
記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。
これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語
※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】共生
ひなこ
ミステリー
高校生の少女・三崎有紗(みさき・ありさ)はアナウンサーである母・優子(ゆうこ)が若い頃に歌手だったことを封印し、また歌うことも嫌うのを不審に思っていた。
ある日有紗の歌声のせいで、優子に異変が起こる。
隠された母の過去が、二十年の時を経て明らかになる?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる