ロンダリングプリンセス―事故物件住みます令嬢―

鬼霧宗作

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ケース4 ロンダリングプリンセス誕生秘話【プロローグ】

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 斑目が静かにコップを置く。一里之の言葉を確認するかのごとく復唱をした。

「事故物件を扱ってる――そりゃ、不動産にいれば、事故物件の1件や2件くらい扱うこともあるでしょうが」

「俺の場合、扱う物件全てが事故物件なんだよね」

 斑目の言葉に一里之が返したところで、店員のおばちゃんが定食を持ってきてくれた。山菜がメインの味噌汁に、大きなおにぎりがふたつ。おにぎりの傍らには、ここら辺では有名な辛味噌。米との相性が抜群の味噌である。それと、卵焼きに近くの川で獲れたであろう川魚の塩焼きか。食べ慣れている人間からすれば、何の変哲もない食事であるが、都会の人達からすれば、こういうのがご馳走なのであろう。都会に慣れてしまった一里之でさえ、美味しく頂けたのだから間違いないだろう。

 食事をとりつつ、斑目には簡単な経緯を説明した。なぜ自分が事故物件だけを扱うような立場なのか。そこにはコトリという存在があり、事故物件に対して異常な執着を見せること――など、かいつまんだつもりだが、それでも両者の食事が終わる頃まで続くボリュームになってしまった。

「なるほど――そいつは大変ですねぇ」

 お嬢様お世話係という名前だけは、どうしても斑目には伝えられなかった。あくまでも自分はいち社員であり、しかし会社命令で事故物件を扱わされている……ということにしておいた。

「まぁ、事故物件ってことは、俗に曰く付きというやつになりますから――多分、彼女の守備範囲ってことになるか」

 デザートで出てきた豆大福を平らげると、コップに残っていたお冷やを飲み干す斑目。確かに、ものが違うだけで、もしかすると彼女が普段から扱っているものと、さほど変わりはないのかもしれない。

「ただ、俺がちょっと意見を聞きたいのは、今は存在していない事故物件で起きた事件について。少し前に建物自体は取り壊されたって案件なんだ」

 一里之が個人的に調べた結果、今のコトリの原動力と言っても過言ではない事件が起きた事故物件は、少し前に取り壊されていたことが分かった。事件が起きた時点で、すでに廃病院となっていたようだし、取り壊されてもおかしくない。しかし、意図的に取り壊されてしまったような印象も強い。

「しかも、取り壊されることになった経緯も気味が悪い。そもそも所有者はすでに他界していて、相続さえもされなかったらしいんだけど、ある日を境に匿名のクレームが市役所に毎日入るようになったんだ。それを受けて、市がお金を出して取り壊すということになったらしい」
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