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ケース3 山奥の事故物件【解決編】
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勝手にお湯を捨ててしまうのはどうかと自分でも思いつつ、推理の披露をする邪魔になってはいけないと、一里之はキッチンへとお湯を捨てに向かう。特にコトリからは何も言われなかったから、もうお湯は不要なのであろう。むしろ、ここまで再現する必要があったのだろうか。
やや錆びついたキッチンのシンクにお湯を捨て、鍋を片手に作業場へと戻った一里之。閂の形に近い長方形の木材が、まさに万力に挟まれたところだった。しかも縦にだ。長方形を正方形まで圧縮せんとばかりに、設置された木材は横ではなく縦だった。
「セバスチャン。しっかりと煮込んではいないから、そこまで柔らかくなってはいないだろうけど、できる限り木材を短く圧縮してみなさいよ」
コトリに言われて袖をまくる鯖洲。なんだかんだでノリノリではないか――なんて、本人には言えない。いつも面倒そうにコトリに付き合っているように見えるからなおさらだ。
「よし、やらせてみろよ」
そこまで力自慢というふうには見えないが、それなりに鯖洲は自信があるのだろう。万力のレバーに手をかけると、全体重をかけるかのごとくレバーを動かした。腕の血管が浮き上がる。しばらく奮闘していたが、しかし相手はさほど柔らかくはなっていない木材。勢いが良かったのは最初だけで、鯖洲は勢い良く息を吐き出すとレバーから手を離した。
「いや、固すぎるだろ、これ――。どうせなら、ちゃんと煮込んだやつを用意しろってんだよ」
思ったよりも木材を圧縮できなかったのか、負け惜しみかのごとく鯖洲が呟く。その呼吸はいまだに少し乱れていた。
「でも、少しだけ煮込んだ木材でも、万力で圧縮しようとすれば、含んでいた水分がかなり出ることが分かったでしょう?」
コトリはそう言うと、スカートをおさえてしゃがみ込んだ。万力の真下――絞った木材の水分が垂れて水溜りになった床を観察するかのごとく眺めると、コトリは続ける。
「作業場の床が掃除されていた理由は――きっと、これなんですわ。犯人はここで閂を短く圧縮しようとした。もちろん、今さっき用意したような木材じゃなくて、しっかりと煮込んで柔らかくなった本物の閂を」
普段は掃除などされていないはずの作業場。しかし、当時なぜか万力の近くの床だけは綺麗になっていたという。その理由こそがこれ――万力で閂を圧縮する際に、含まれていた水分が床に垂れてしまったからなのだ。掃除をしたのではなく、掃除せざるを得なくて掃除したということか。誰が――なんて言うまでもなかろう。
やや錆びついたキッチンのシンクにお湯を捨て、鍋を片手に作業場へと戻った一里之。閂の形に近い長方形の木材が、まさに万力に挟まれたところだった。しかも縦にだ。長方形を正方形まで圧縮せんとばかりに、設置された木材は横ではなく縦だった。
「セバスチャン。しっかりと煮込んではいないから、そこまで柔らかくなってはいないだろうけど、できる限り木材を短く圧縮してみなさいよ」
コトリに言われて袖をまくる鯖洲。なんだかんだでノリノリではないか――なんて、本人には言えない。いつも面倒そうにコトリに付き合っているように見えるからなおさらだ。
「よし、やらせてみろよ」
そこまで力自慢というふうには見えないが、それなりに鯖洲は自信があるのだろう。万力のレバーに手をかけると、全体重をかけるかのごとくレバーを動かした。腕の血管が浮き上がる。しばらく奮闘していたが、しかし相手はさほど柔らかくはなっていない木材。勢いが良かったのは最初だけで、鯖洲は勢い良く息を吐き出すとレバーから手を離した。
「いや、固すぎるだろ、これ――。どうせなら、ちゃんと煮込んだやつを用意しろってんだよ」
思ったよりも木材を圧縮できなかったのか、負け惜しみかのごとく鯖洲が呟く。その呼吸はいまだに少し乱れていた。
「でも、少しだけ煮込んだ木材でも、万力で圧縮しようとすれば、含んでいた水分がかなり出ることが分かったでしょう?」
コトリはそう言うと、スカートをおさえてしゃがみ込んだ。万力の真下――絞った木材の水分が垂れて水溜りになった床を観察するかのごとく眺めると、コトリは続ける。
「作業場の床が掃除されていた理由は――きっと、これなんですわ。犯人はここで閂を短く圧縮しようとした。もちろん、今さっき用意したような木材じゃなくて、しっかりと煮込んで柔らかくなった本物の閂を」
普段は掃除などされていないはずの作業場。しかし、当時なぜか万力の近くの床だけは綺麗になっていたという。その理由こそがこれ――万力で閂を圧縮する際に、含まれていた水分が床に垂れてしまったからなのだ。掃除をしたのではなく、掃除せざるを得なくて掃除したということか。誰が――なんて言うまでもなかろう。
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