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ケース3 山奥の事故物件【解決編】
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「おいおい、とうとう頭いっちまったか? どうやったら閂がひとりでにかかるっていうんだ?」
鯖洲の疑問に、コトリはさらにメルヘンチックなことを言い出した。
「お鍋でコトコト煮込めばいいのよ」
一里之はコトリからあるお願いをされていた。それは、鍋とコンロを用意すること。鍋はともかく、燃料が限定されている状況でコンロを用意するのは難しいと思ったが、駄目もとで冥に聞いてみたら、あっさりと使用許可が降りた。もう下山するから必要ないと判断したのであろう。カセットコンロではあるが、使用していないガスボンベ数本も含めて、拝借することができた。
コトリのアイコンタクトを合図に「作業場のほうに移動しましょうか」と一同を案内する一里之。カセットコンロと鍋はすでに作業場のほうに用意してあった。もっとも、鍋は例の安定しない鍋だが。
作業場に向かうと、一里之は打ち合わせ通りに動く。作業場の片隅にあった木材……当時、現場に残されていた閂を再現したものをコトリに手渡す。
「さて、現場に残っていた閂は、不揃いな形で真っ二つになっていたそうですわね。これ、どうして真っ二つなったと思う?」
再現した閂は切断された閂のつもりだ。もちろん、実際の寸法などは分からないから、アバウトに作ったものであるが。作業場に残っていた道具でこしらえたわけだが、糸鋸なんて久方ぶりに触った気がする。
「事件の流れからして岩尾が扉を壊す際に閂を割ってしまったのでは?」
冥の言葉を受けて、首を大きく横に振るコトリ。ならば閂は誰が真っ二つにしたのか。
「いいえ。実はね、この閂が真っ二つにされたのはもっと前の話――多分、被害者が殺害される前だったのよ。つまり、これを真っ二つにしたのは、真っ二つにする必要があった人物。犯人だとしか思えませんわ」
閂を真っ二つにしたのは岩尾ではなく犯人。岩尾がハチェットを持ち出してしまったから、扉を壊す際に閂が割れたように見えるが、実際のところは違うらしい。用意するものだけ指示をされ、けれども真相は教えてもらっていないから、なんとも気持ちが悪い。
「でも、なんでわざわざ閂を真っ二つに――」
「そのままの長さだとお鍋に入りきらないからよ」
寺山の言葉を待っていたかのこどく、コトリはそれにかぶせるようにして返す。つまり、お鍋で閂を煮込むために、犯人は閂を切断しなければならなかった――ということか。だとすれば、当然のように次の疑問が出てくる。それを代弁してくれたのは鯖洲だった。
「そもそも、閂を煮込んでどうすんだよ?」
鯖洲の疑問に、コトリはさらにメルヘンチックなことを言い出した。
「お鍋でコトコト煮込めばいいのよ」
一里之はコトリからあるお願いをされていた。それは、鍋とコンロを用意すること。鍋はともかく、燃料が限定されている状況でコンロを用意するのは難しいと思ったが、駄目もとで冥に聞いてみたら、あっさりと使用許可が降りた。もう下山するから必要ないと判断したのであろう。カセットコンロではあるが、使用していないガスボンベ数本も含めて、拝借することができた。
コトリのアイコンタクトを合図に「作業場のほうに移動しましょうか」と一同を案内する一里之。カセットコンロと鍋はすでに作業場のほうに用意してあった。もっとも、鍋は例の安定しない鍋だが。
作業場に向かうと、一里之は打ち合わせ通りに動く。作業場の片隅にあった木材……当時、現場に残されていた閂を再現したものをコトリに手渡す。
「さて、現場に残っていた閂は、不揃いな形で真っ二つになっていたそうですわね。これ、どうして真っ二つなったと思う?」
再現した閂は切断された閂のつもりだ。もちろん、実際の寸法などは分からないから、アバウトに作ったものであるが。作業場に残っていた道具でこしらえたわけだが、糸鋸なんて久方ぶりに触った気がする。
「事件の流れからして岩尾が扉を壊す際に閂を割ってしまったのでは?」
冥の言葉を受けて、首を大きく横に振るコトリ。ならば閂は誰が真っ二つにしたのか。
「いいえ。実はね、この閂が真っ二つにされたのはもっと前の話――多分、被害者が殺害される前だったのよ。つまり、これを真っ二つにしたのは、真っ二つにする必要があった人物。犯人だとしか思えませんわ」
閂を真っ二つにしたのは岩尾ではなく犯人。岩尾がハチェットを持ち出してしまったから、扉を壊す際に閂が割れたように見えるが、実際のところは違うらしい。用意するものだけ指示をされ、けれども真相は教えてもらっていないから、なんとも気持ちが悪い。
「でも、なんでわざわざ閂を真っ二つに――」
「そのままの長さだとお鍋に入りきらないからよ」
寺山の言葉を待っていたかのこどく、コトリはそれにかぶせるようにして返す。つまり、お鍋で閂を煮込むために、犯人は閂を切断しなければならなかった――ということか。だとすれば、当然のように次の疑問が出てくる。それを代弁してくれたのは鯖洲だった。
「そもそも、閂を煮込んでどうすんだよ?」
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