ロンダリングプリンセス―事故物件住みます令嬢―

鬼霧宗作

文字の大きさ
上 下
153 / 391
ケース3 山奥の事故物件【出題編】

31

しおりを挟む
「もしかして、殺害されたオーナーって、何か特別な趣味をお持ちじゃなかったかしら? 例えば、木材を使った何か――とか」

 この作業場の状況から、コトリは何を掴んでいるのだろうか。渋々と鯖洲が鍋を探しに作業場を出るとコトリが問うてきた。自然と資料をめくる癖がついている一里之。かゆいところに手が届くように、作業場についての記載があった。

「えっと、オーナーには木材を使って置物を作る趣味があったみたいです。でも、どうしてここの設備を見ただけで――」

 この作業場はオーナーの趣味のために作られた場所なのであろう。それは資料に書いてあるのだが、ここの設備とオーナーの趣味がどう結びつくのか分からない。

「ここにある万力は、多分ですけど曲げ木という手法のために置いてあると思いますの。以前、本で読んだことがありましてよ」

 曲げ木……これまで生きてきた中で聞いたこともない言葉だった。このようにコトリは、時に一里之の知らない知識を持ち出すことがある。天然そうに見えるが、知識はしっかりと蓄えているのだろう。

「曲げ木というのは、木材を曲げる手法ですね。本来ならば、木を曲げようとすれば簡単に折れてしまいます。そこで、木に水分を含ませることで柔らかくさせ、万力などに挟んで木を曲げるのでございます」

 鯖洲の姿が見えなくなった途端、いつもの寺山が姿を現した。本性らしきものを見てしまっているから、どうしても取り繕っているようにしか見えない。

「その通り。一般的に木材に水分を含ませるために、一度鍋に木材を入れ、それを煮込むらしいですわよ。ほら、どんなに固いお野菜でも、お鍋で煮込めば柔らかくなるでしょう? あれと同じ理屈ですわ」

 なるほど、だから鯖洲に鍋を探すように命じたわけか。しかし、ならば大鍋である必要はないように思えるのだが。

「つまり、この作業場はオーナーが曲げ木とやらをするために作った場所――ということですか」

 実際にどのようなものを作っていたのかは不明だが、こんな山奥に、なかば住み込みのような状態で働いていたのであろう。息抜きをすることも必要だ。こうして趣味の部屋を作ることができるのはオーナーの特権といったところか。コトリは小さく頷く。

「資料にも書いてあったから、それはまず間違いないですわね。ここで木材を茹で、そして万力に挟んで曲げる。キッチンの火を使わなかったのは、単純に効率が悪かったからなんでしょう。かといって、キッチンを作業場にしてしまうこともできないだろうし」
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

魔女の虚像

睦月
ミステリー
大学生の星井優は、ある日下北沢で小さな出版社を経営しているという女性に声をかけられる。 彼女に頼まれて、星井は13年前に裕福な一家が焼死した事件を調べることに。 事件の起こった村で、当時働いていたというメイドの日記を入手する星井だが、そこで知ったのは思いもかけない事実だった。 ●エブリスタにも掲載しています

ミノタウロスの森とアリアドネの嘘

鬼霧宗作
ミステリー
過去の記録、過去の記憶、過去の事実。  新聞社で働く彼女の元に、ある時8ミリのビデオテープが届いた。再生してみると、それは地元で有名なミノタウロスの森と呼ばれる場所で撮影されたものらしく――それは次第に、スプラッター映画顔負けの惨殺映像へと変貌を遂げる。  現在と過去をつなぐのは8ミリのビデオテープのみ。  過去の謎を、現代でなぞりながらたどり着く答えとは――。  ――アリアドネは嘘をつく。 (過去に別サイトにて掲載していた【拝啓、15年前より】という作品を、時代背景や登場人物などを一新してフルリメイクしました)

この欠け落ちた匣庭の中で 終章―Dream of miniature garden―

至堂文斗
ミステリー
ーーこれが、匣の中だったんだ。 二〇一八年の夏。廃墟となった満生台を訪れたのは二人の若者。 彼らもまた、かつてGHOSTの研究によって運命を弄ばれた者たちだった。 信号領域の研究が展開され、そして壊れたニュータウン。終焉を迎えた現実と、終焉を拒絶する仮想。 歪なる領域に足を踏み入れる二人は、果たして何か一つでも、その世界に救いを与えることが出来るだろうか。 幻想、幻影、エンケージ。 魂魄、領域、人類の進化。 802部隊、九命会、レッドアイ・オペレーション……。 さあ、あの光の先へと進んでいこう。たとえもう二度と時計の針が巻き戻らないとしても。 私たちの駆け抜けたあの日々は確かに満ち足りていたと、懐かしめるようになるはずだから。

【完結】共生

ひなこ
ミステリー
高校生の少女・三崎有紗(みさき・ありさ)はアナウンサーである母・優子(ゆうこ)が若い頃に歌手だったことを封印し、また歌うことも嫌うのを不審に思っていた。 ある日有紗の歌声のせいで、優子に異変が起こる。 隠された母の過去が、二十年の時を経て明らかになる?

カフェ・シュガーパインの事件簿

山いい奈
ミステリー
大阪長居の住宅街に佇むカフェ・シュガーパイン。 個性豊かな兄姉弟が営むこのカフェには穏やかな時間が流れる。 だが兄姉弟それぞれの持ち前の好奇心やちょっとした特殊能力が、巻き込まれる事件を解決に導くのだった。

回想録

高端麻羽
ミステリー
古き良き時代。 街角のガス灯が霧にけぶる都市の一角、ベィカー街112Bのとある下宿に、稀代の名探偵が住んでいた。 この文書は、その同居人でありパートナーでもあった医師、J・H・ワトスン氏が記した回想録の抜粋である。

強制憑依アプリを使ってみた。

本田 壱好
ミステリー
十八年間モテた試しが無かった俺こと童定春はある日、幼馴染の藍良舞に告白される。 校内一の人気を誇る藍良が俺に告白⁈ これは何かのドッキリか?突然のことに俺は返事が出来なかった。 不幸は続くと言うが、その日は不幸の始まりとなるキッカケが多くあったのだと今となっては思う。 その日の夜、小学生の頃の友人、鴨居常叶から当然連絡が掛かってきたのも、そのキッカケの一つだ。 話の内容は、強制憑依アプリという怪しげなアプリの話であり、それをインストールして欲しいと言われる。 頼まれたら断れない性格の俺は、送られてきたサイトに飛んで、その強制憑依アプリをインストールした。 まさかそれが、運命を大きく変える出来事に発展するなんて‥。当時の俺は、まだ知る由もなかった。

猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~

橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。 記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。 これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語 ※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります

処理中です...