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ケース3 山奥の事故物件【出題編】
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「もしかして、殺害されたオーナーって、何か特別な趣味をお持ちじゃなかったかしら? 例えば、木材を使った何か――とか」
この作業場の状況から、コトリは何を掴んでいるのだろうか。渋々と鯖洲が鍋を探しに作業場を出るとコトリが問うてきた。自然と資料をめくる癖がついている一里之。かゆいところに手が届くように、作業場についての記載があった。
「えっと、オーナーには木材を使って置物を作る趣味があったみたいです。でも、どうしてここの設備を見ただけで――」
この作業場はオーナーの趣味のために作られた場所なのであろう。それは資料に書いてあるのだが、ここの設備とオーナーの趣味がどう結びつくのか分からない。
「ここにある万力は、多分ですけど曲げ木という手法のために置いてあると思いますの。以前、本で読んだことがありましてよ」
曲げ木……これまで生きてきた中で聞いたこともない言葉だった。このようにコトリは、時に一里之の知らない知識を持ち出すことがある。天然そうに見えるが、知識はしっかりと蓄えているのだろう。
「曲げ木というのは、木材を曲げる手法ですね。本来ならば、木を曲げようとすれば簡単に折れてしまいます。そこで、木に水分を含ませることで柔らかくさせ、万力などに挟んで木を曲げるのでございます」
鯖洲の姿が見えなくなった途端、いつもの寺山が姿を現した。本性らしきものを見てしまっているから、どうしても取り繕っているようにしか見えない。
「その通り。一般的に木材に水分を含ませるために、一度鍋に木材を入れ、それを煮込むらしいですわよ。ほら、どんなに固いお野菜でも、お鍋で煮込めば柔らかくなるでしょう? あれと同じ理屈ですわ」
なるほど、だから鯖洲に鍋を探すように命じたわけか。しかし、ならば大鍋である必要はないように思えるのだが。
「つまり、この作業場はオーナーが曲げ木とやらをするために作った場所――ということですか」
実際にどのようなものを作っていたのかは不明だが、こんな山奥に、なかば住み込みのような状態で働いていたのであろう。息抜きをすることも必要だ。こうして趣味の部屋を作ることができるのはオーナーの特権といったところか。コトリは小さく頷く。
「資料にも書いてあったから、それはまず間違いないですわね。ここで木材を茹で、そして万力に挟んで曲げる。キッチンの火を使わなかったのは、単純に効率が悪かったからなんでしょう。かといって、キッチンを作業場にしてしまうこともできないだろうし」
この作業場の状況から、コトリは何を掴んでいるのだろうか。渋々と鯖洲が鍋を探しに作業場を出るとコトリが問うてきた。自然と資料をめくる癖がついている一里之。かゆいところに手が届くように、作業場についての記載があった。
「えっと、オーナーには木材を使って置物を作る趣味があったみたいです。でも、どうしてここの設備を見ただけで――」
この作業場はオーナーの趣味のために作られた場所なのであろう。それは資料に書いてあるのだが、ここの設備とオーナーの趣味がどう結びつくのか分からない。
「ここにある万力は、多分ですけど曲げ木という手法のために置いてあると思いますの。以前、本で読んだことがありましてよ」
曲げ木……これまで生きてきた中で聞いたこともない言葉だった。このようにコトリは、時に一里之の知らない知識を持ち出すことがある。天然そうに見えるが、知識はしっかりと蓄えているのだろう。
「曲げ木というのは、木材を曲げる手法ですね。本来ならば、木を曲げようとすれば簡単に折れてしまいます。そこで、木に水分を含ませることで柔らかくさせ、万力などに挟んで木を曲げるのでございます」
鯖洲の姿が見えなくなった途端、いつもの寺山が姿を現した。本性らしきものを見てしまっているから、どうしても取り繕っているようにしか見えない。
「その通り。一般的に木材に水分を含ませるために、一度鍋に木材を入れ、それを煮込むらしいですわよ。ほら、どんなに固いお野菜でも、お鍋で煮込めば柔らかくなるでしょう? あれと同じ理屈ですわ」
なるほど、だから鯖洲に鍋を探すように命じたわけか。しかし、ならば大鍋である必要はないように思えるのだが。
「つまり、この作業場はオーナーが曲げ木とやらをするために作った場所――ということですか」
実際にどのようなものを作っていたのかは不明だが、こんな山奥に、なかば住み込みのような状態で働いていたのであろう。息抜きをすることも必要だ。こうして趣味の部屋を作ることができるのはオーナーの特権といったところか。コトリは小さく頷く。
「資料にも書いてあったから、それはまず間違いないですわね。ここで木材を茹で、そして万力に挟んで曲げる。キッチンの火を使わなかったのは、単純に効率が悪かったからなんでしょう。かといって、キッチンを作業場にしてしまうこともできないだろうし」
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